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2020年7月19日説教「聞いて信じる」松本敏之牧師

聞いて信じる

ヨハネ福音書4章43~54節

(1)礼拝再開の喜び

3週間ぶりに、礼拝堂に集う形での礼拝を再開しました。ただし長時間ここに留まることを避けるために、30分から35分程度の短い礼拝を目安にしたいと思っています。一日も早く、新型コロナ・ウイルスの問題が解決しますようにと願ってやみません。しかし同時に、私たちは、ウィズ・コロナの時代に、それでもどのようにすれば、安心して礼拝を続けられるかということを祈りつつ、模索していきたいと思います。5月31日に、新しいホームページが始まり、説教の動画配信がスムーズにできるようになったことは、本当にうれしいことであります。
6月末に発行した7月の予定表では、本日は出エジプト記で説教する予定でしたが、出エジプト記で短い説教をするのは困難なので、急遽、ヨハネ福音書4章の、先週の続きの箇所で説教をすることにしました。先週、3週間続きで、教団の聖書日課を1週間遅れで取り扱っていると申し上げましたが、本日もその続き、7月12日の聖書日課の箇所です。

(2)預言者は故郷では敬われない

ヨハネ福音書4章のこれまでのところでは、イエス・キリストがサマリア地方で一人の女性に出会い、その出会いをきっかけにしてサマリア地方にキリストの福音が広まったという物語を記しています。主イエスはその後、本来の目的地であるガリラヤへ行かれます。
「二日後、イエスはそこを出発して、ガリラヤへ行かれた。イエスは自ら、『預言者は自分の故郷では敬われないものだ』とはっきり言われたことがある。」(43~44節)
「預言者は自分の故郷では敬われない。」これは一般に語られていた一種のことわざ、言い回しのようなものです。故郷では、人はどういう家柄の人であるか、小さい頃はどういう風であったか、すべて知られている。そのことがかえって、その人の真価を見抜く妨げになるということでしょう。イエス・キリストの場合もそうであった、ということが、他の福音書にはっきりと示されています。
たとえば、マルコ福音書には、こう記されています。「イエスはそこを去って故郷にお帰りになったが、弟子たちも従った。安息日になったので、イエスは会堂で教え始められた。多くの人々はそれを聞いて驚いて言った。『この人は、このようなことをどこから得たのだろう。この人が授かった知恵と、その手で行われるこのような奇跡はいったい何か。この人は大工ではないか。マリアの息子で、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟ではないか。姉妹たちは、ここで我々と一緒に住んでいるではないか』。このように、人々はイエスにつまずいた。イエスは、『預言者が敬われないのは、自分の故郷、親戚や家族の間だけである』と言われた」(マルコ6:1~4)。

(3)奇跡を見ていたので、信じた(歓迎した)

ところが、ヨハネ福音書は、他の福音書と同じように「預言者は故郷では敬われない」という言葉を引用しながら、次のように続けるのです。
「ガリラヤにお着きになると、ガリラヤの人たちはイエスを歓迎した」(45節)。
これは一見、その前の言葉とも、他の福音書が述べていることとも矛盾するように思えます。しかし実際には、同じことを指し示しているのだと思います。ガリラヤの人々の歓迎は、全く表面的なものでありました。
ガリラヤの人々は、イエス・キリストの奇跡を知っていました。特にガリラヤのカナでは、水をぶどう酒に変える奇跡をなされたことを、人々は知っていました(2:23参照)。ぜひそのような奇跡を、自分たちの故郷でもやって欲しいという思いで、歓迎したのです。ですからイエス・キリストは、歓迎されても決して有頂天にはならず、かえって彼らの歓迎を否定するようなことまで言われました(48節)。
このガリラヤの人々の反応は、これまでのサマリア人たちの反応と対比的です。
サマリアの人々はこうでありました。39節、「さて、その町の多くのサマリア人は、……女の言葉によって、イエスを信じた」。41節、「そして、更に多くの人々が、イエスの言葉を聞いて信じた」。そして42節、「わたしたちが信じるのは、もうあなたが話してくれたからではない。わたしたちは自分で聞いて、この方が本当に世の救い主であると分かったからです」。これは、聞いて信じる信仰です。それに対して、ガリラヤの人々の信仰(信仰と言えるかどうかわかりませんが)は、奇跡を見て信じる信仰です。
サマリア人というのは、ユダヤ人から見れば亜流です。ユダヤ人たちは自分たちこそ、信仰の本家本元だと思っていました。ところがそのユダヤ人が、エルサレムにしろ、ガリラヤにしろ、奇跡を見て信じる信仰に陥っているのに、亜流のはずのサマリア人は、聞いて信じる信仰をしっかりともっていたのです。
復活のイエス・キリストが弟子たちに現れた時、弟子の一人トマスが不在でした。彼は、いくら他の弟子たちの証言を聞いても、「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない」(ヨハネ20:25)と言い張りました。
すると主イエスは、トマスのためにもう一度現れてくださり、「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。また、あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい」(同27節)と言われました。彼は、そこで主イエスのみ心を知り、「わたしの主、わたしの神よ」という信仰告白をします。そこで主イエスは、有名な言葉を語られました。「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである」(同29節)。

(4)奇跡を願う信仰

このところでもやはり、見て信じる信仰から、み言葉を聞いて信じる信仰へ、ということが主題になっています。舞台は、ガリラヤのカナです。そこはイエス・キリストが最初の奇跡、しるしを行われたところでした。
そこへカファルナウムという別の町から、一人の王の役人がわざわざイエス・キリストを訪ねてきました。カファルナウムからカナまでは直線距離で約30キロです。そう近くはありません。その道のりを越えて、イエス・キリストに会いにやってきたのです。彼の息子が、死にかけるほどの病気であったからです。「どうぞカファルナウムまで下って来て、息子をいやしてください。息子が死にかかっているのです」と訴えました。
主イエスは、それを聞いて「あなたがたは、しるしや不思議な業を見なければ、決して信じない」(48節)と、冷たい反応をされました。しかし彼はあきらめません。「主よ、子供が死なないうちに、おいでください」(49節)と、しつこく食い下がります。そこで主イエスのほうが、その熱意に負けたのでしょうか。あるいはこの王の役人の中に、何かしら、他のユダヤ人とは違う信仰のかけらを見て取られたのでしょうか。次のような言葉をかけられるのです。「帰りなさい。あなたの息子は生きる」(50節)。

(5)見ないで信じる信仰

この言葉は、この王の役人を戸惑わせたことであろうと思います。彼が願ったことは、イエス・キリストを連れて帰って、いやしていただくことでした。そのことは拒否されたのです。しかし全く拒否されたのではなく、「あなたの息子は生きる」と宣言をされたのでした。つまり彼はこの時、イエス・キリストの救いの宣言だけを聞いて、その言葉を信じるかどうかが問われたのです。彼は、「いや、あなたをお連れするまでは信用するわけにはいきません」と言うことができたかもしれませんし、「ちょっとお待ちください。遣いの者をやって、本当に治ったかどうか確かめさせますから」と言うこともできたかもしれません。しかし彼は、この時「見ないで信じる信仰」へと促されていきました。彼は、「イエスの言われた言葉を信じて帰って行った」(50節)のです。
ヘブライ人への手紙11章1節に、「信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです」とあります。彼はこの時、まさに「望んでいる事柄を確信し」、まだ見ていない「事実を確認し」て、帰って行ったのです。
帰って行く途中で、息子の病気がよくなったことを知らされました。そしてその時刻を尋ねますと、イエス・キリストが「あなたの息子は生きる」と宣言されたのと同じ時刻でありました。大事なことは、彼はしるしを見て信じたのではなくて、見ないまま、言葉を聞いて信じた。その結果として、しるしが与えられたということです。
確かに、しるしと信仰というのはそういう関係にあるのでしょう。信仰をもって見て、はじめてしるしは意味を持ってくるのです。信仰をもってでなければ、しるしをしるしとして見抜くことすらできないでしょう。「偶然そうなった」とか、「ラッキー」とか、思ってしまうかもしれません。この王の役人も、これを受け止めることもできたわけですが、彼は見ないで信じた結果、それをしるしとして見ることができたのだと思います。
この王の役人の息子は、その時は元気になりましたが、人間ですから、当然のことながら、その後いつかは(恐らく何十年か後には)、死んでいきました。そのことからすれば、いやしというのは、死に対する根本的な解決ではない。一時的な解決に過ぎないと言えます。いずれは誰もが死ぬのです。
イエス・キリストが、この時「あなたの息子は生きる」と宣言なさった。その宣言を、彼は受けとめて帰った。この言葉こそ、息子の肉体的な命を超えたところで、真実なものとして残るものでしょう。「そして、彼もその家族もこぞって信じた」(53節)と記されています。結果として、家族全体に信仰の輪が広がったことのほうが、実は深い意味をもつのではないでしょうか。

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