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「判決、ふたつの希望」 2017年 レバノン・フランス

世界の映画 映画の世界
第53回
「判決、ふたつの希望」
2017年
レバノン・フランス
113分
<監督>ジアド・ドゥエイリ
原題:L’insulte

中東問題は複雑である。単にユダヤ人対アラブ人の対立ではない。イスラエルの圧力により、国を出ざるを得なくなったパレスチナ難民が周辺国ヨルダンやレバノンに流入し、そこで衝突が生じる。国民の間でも難民を受け入れるかどうかで対立し、内戦まで起きてくる。この映画は、レバノン国内のそうした事情を背景にしている。
トニーは、マロン派と呼ばれるキリスト教徒である。マロン派とは、5世紀初めに東ローマ帝国内で生まれた教派である(東西教会の分裂以前)。東方教会の典礼様式をもつが、カトリック(西方教会)に属する。レバノンでは三割がこの教派に属し、愛国主義的で難民をきらう傾向が強い。
ヤーセルはパレスチナ難民であるが、仕事の確かさを買われ、違法建築の補修を請け負う現場監督を務めている。
ヤーセルとトニーは、アパートの配管工事をめぐって言い合いになり、ヤーセルは「クズ野郎!」と吐き捨てる。謝罪に行ったヤーセルに、トニーは「シャロン(当時のイスラエルの外相)に抹殺されていればよかった!」とひどい侮辱の言葉を浴びせ、ヤーセルは思わず殴ってしまった。
骨折したトニーはヤーセルをゆるせず、裁判となる。背景には民族的、思想的対立があるので、双方の弁護士のやり方も支援するグループの「場外乱闘」もエスカレートしていった。事の成り行きに、当の二人は戸惑うようになるが、もう引き返せない。
裁判の中で、ヤーセルは、トニーも内戦の隠れた被害者であったことを知り、気持ちが和らいでいく。似た者同士であったのだ。どのように過去を乗り越え、未来に向かって歩めばよいのか、示唆に富んだ映画である。

ポスター画像

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