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「ボーダレス ぼくの船の国境線」2014年 イラン

世界の映画 映画の世界
第23回
「ボーダレス ぼくの船の国境線」2014年 イラン 102分
<監督>アミルホセイン・アスガリ

舞台は、イランとイラクの国境の小さな川に浮かぶ廃船。恐らくイラン・イラク戦争の時代(1980~88)であろう。川沿いの葦の茂みには、「国境侵入者には発砲する」という標識が掲げられ、対岸では米兵が見回っている。
ひとりのイラン人少年が、この船を住まいとし、魚を釣ったり、貝細工を作ったりして生きている。毎日見つからないように、潜って岸へ行き、それらを売り、必要なものを買っている。独りぼっちだが、寂しさを感じる暇もない。
ある日、彼の船に同年輩のイラクの「少年」兵が侵入してきた。銃を構え、偉そうにするが、何かおびえている。イランの言葉はペルシャ語で、イラクの言葉はアラビア語なので、言葉も通じない。侵入者は、船の中にロープを張り、「ロープからこっちには絶対に入って来るな」と叫ぶ。
数日後、対岸で「ドーン」という音がして、少年兵は飛び出していった。そして赤ん坊を抱えて、泣きながら帰って来た。その日から二人の関係は変わっていく。元から住んでいたイラン人少年は、赤ちゃんのためにミルクを買いに走る。ロープは取り去られ、お互いの心の壁も無くなっていった。赤ちゃんをあやすイラン人少年に、穏やかで、うれしそうな笑顔が見え始める。
そこへ突然、第二の侵入者、武装した米兵がやって来た。船内に再び緊張が走る。果たしてこの先、どうなるのか。
イラン映画には、知る人ぞ知る伝統と深い味わいがある。「えっ、これで終わり?」と思うような控えめな表現が多いが、それがイランの美学なのだろう。この映画も新人監督ながら、それを受け継いでいる。少年の表情や小さな仕草から、孤独、たくましさ、優しさ、恥じらいなど多くのものを読み取って欲しい。

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