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2023年6月11日説教「預言者エリヤ」松本敏之牧師

列王記上19章1~15節
マタイによる福音書17章1~8節

(1)新約聖書の中のエリヤ

 鹿児島加治屋町教会独自の聖書日課、今は列王記下の12章まで来ました。列王記上のソロモン王については、5月7日にお話ししましが、後半のハイライトであるエリヤ物語についても、皆さんと分かち合いたいと思った次第です。

私たちは、列王記上前半に出てくるソロモン王の記事をご一緒に読みました。聖書日課では、すでに列王記下に入っていますが、列王記上の後半のハイライトである預言者エリヤの物語も、やはりご一緒に学んでおきたいと思い、今日、取り上げることにいたしました。

預言者エリヤは、旧約聖書を代表する人物の一人として、新約聖書にも登場します。
その中で、最も印象的なのが、先ほど読んでいただいたマタイによる福音書17章に出てくる「山上の変容」と呼ばれる記事です。こう始まります。

「六日の後、イエスは、ペトロ、それにヤコブとその兄弟ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。すると、彼らの目の前でイエスの姿が変わり、顔は太陽のように輝き、衣は光のように白くなった。」マタイ17:1~2

こう続きます。

「見ると、モーセとエリヤが現れ、イエスと語り合っていた。」マタイ17:3

イスラエルの人々には、この二人はとりわけ大きな存在でありました。モーセは、イスラエルの民を奴隷の地エジプトから導き出した指導者です。このモーセに神は最も大事な律法である十戒を授けられました。そういう形で神と人との間に立った人です。旧約聖書の中の律法を代表しています。

一方、エリヤは神の言葉を取り次ぐ預言者でした。また世の終わりには再び現れると言われていました(マラキ書3:23)。

旧約聖書のことを「律法と預言者」という言い方をすることがありますが(マタイ5:17、22:40)、この二人が旧約聖書全体、あるいは旧約以来のイスラエルの歴史を象徴していると言うこともできるでしょう。その二人がイエス・キリストを認めている。認めるだけではなくて、イエス・キリストがそのモーセとエリヤの真ん中に立っておられるのです。

モーセのほうは、私たちは出エジプトの物語を通して、知っている方も多いと思いますが、エリヤのほうはどういう人物であったか、あまりご存じない方もあるかもしれません。実は、モーセ物語にも勝るとも劣らない、とても興味深い話がいろいろとあるのです。

今日は、その中の幾つかの物語を拾い上げて紹介したいと思います。

(2)悪名高きアハブ王

エリヤが活躍したのは、紀元前9世紀前半です(870~850年代)。時の王は悪名高きアハブでした。妻も同様悪名高きイゼベルでした。列王記上16章30節に、こう記されています。

「オムリの子アハブは、彼以前の誰よりも主の目に悪とされることを行った。」列王記上16:30

「アハブはサマリアに建てたバアルの神殿に、バアルのための祭壇を築いた。彼はまた、アシェラ像を造った。こうしてアハブは、彼以前のイスラエルのどの王にも増して、イスラエルの神、主を怒らせることをしたのである。」(列王記上16:32~33

バアルというのは、異教の神様の名前として出てきますが、豊穣神とも言って、繁栄を約束してくれる神様、こちら側の言う通りになってくれる神様とでも言えばよいでしょうか。でもそういう神様は神様とは言えないでしょう。こちらの言いなりになってくれる神様。そんな神様は偶像だと言わなければならないでしょう。

列王記上17章から、預言者エリヤが登場します。アハブ王との対決姿勢を鮮明にします。17章1節。

「ギルアドの住民であるティシュベ人エリヤはアハブに言った。『私が仕えているイスラエルの神、主は生きておられる。私が言葉を発しないかぎり、この数年間、露も降りず、雨も降らないであろう。』」(列王記上17:1

(3)ケリトの渓谷に隠れるエリヤ

エリヤはそう語ると、すぐにアハブ王の前から去りました。命の危険を感じたのでしょう。主なる神様もこう告げられていたのです。

「ここを去って、東へ向かい、ヨルダンの東にあるケリトの渓谷に身を隠し、その渓谷の水を飲みなさい。私は烏に命じて、そこであなたを養わせる。」列王記上17:3

エリヤは、ケリトの渓谷の水のほとりに身を寄せました。すると烏が、朝にはパンと肉を、夕方にもパンと肉を彼のもとに運んできました。水は渓谷で飲みました。しかししばらくすると、日照り続きなので、渓谷の水も干上がってしまいました。再び、主の言葉がエリヤに臨みました。

(4)サレプタのやもめ

「すぐにシドンのサレプタへ行って、そこに身を寄せなさい。私はそこで一人のやもめに命じて、あなたを養わせる。」列王記上17:9

エリヤがサレプタへ向かいます。そして町の入口に着くと、一人の女性が薪(たきぎ)を拾っていました。エリヤは声をかけます。

「器に少し水を持って来て、私に飲ませてください。」列王記上17:10

彼女が水を取りに行こうとすると、エリヤはさらにこう言いました。 

「どうかパンも一切れ持って来てください。」列王記上17:11

すると彼女はこう言いました。

「私には、焼いたパンなどありません。かめの中に一握りの小麦粉と、瓶に少しの油があるだけです。……私は二本の薪を拾って来ましたが、これから私と息子のために調理するところです。それを食べてしまえば、あとは死ぬばかりです。」列王記上17:12

エリヤは、こう答えました。

「心配は要りません。家に帰って、初めに私のために小さなパンを作って、持って来なさい。それからあなたと息子さんのためにパンを作りなさい。神様は、雨が降るまで、かめの中の粉も、瓶の中の油もなくならないと約束してくださいました。」

彼女はエリヤの言う通りにしました。すると、彼女もエリヤも、何日も食べることができました。またかめの小麦粉も、瓶の中の油もなくなることはありませんでした。

(5)子どもを生き返らせたエリヤ

それからしばらくして、この家の一人息子が重い病気になり、ついに息を引き取ってしまいました。彼女はエリヤにこう言いました。

「神の人、あなたは私と何の関りがあるというのですか。あなたは私の過ちを思い起こさせ、息子を死なせるために来られたのですか。」列王記17:18

エリヤは「子どもを私によこしなさい」と言って、彼女から息子の体を受け取ると、二階の部屋へ抱いて上がり、自分のベッドに寝かせます。そして神様に向かって叫びました。

「わが神、主よ、私が身を寄せているこのやもめにまで災いをもたらし、その子を死なせるおつもりですか。」列王記上17:20

そしてその子の上に三度身を重ね、また叫びました。

「わが神、主よ、どうかこの子の命を元に戻してください。」列王記上17:21

そうすると、エリヤの祈りが聞かれて、その子は息を吹き返しました。そしてエリヤはその子を抱いて下に降りてきて、お母さんに渡しました。
「御覧なさい。この子は生きています。」

(6)バアルの預言者たちとの対決

さて18章に入ると、エリヤとバアルの預言者たちの対決の話が出てきます。

エリヤがアハブ王に「日照り」のことを告げて、3年目になりました。エリヤは、神様のお告げを聞きます。

「エリヤよ、あなたはアハブのところへ行って、私がこれから雨を降らせることを告げなさい。」

エリヤは、さきの親子の家を離れて、アハブ王のところへ行き、神様の言葉を告げました。アハブ王はエリヤを見るや否や、こう怒鳴りつけました。

「お前か、イスラエルをかき乱す者は」

エリヤは、こう言い返します。

「私がイスラエルをかき乱しているのではない。主の戒めを捨て、バアルなどに従っている、あなたこそがかき乱しているの。」

そしてこう続けます。

「さあ今、使いやって、カルメル山の私のもとに、全イスラエルの450人のバアルの預言者(と400人のアシェラの預言者)を集めなさい。」

アハブ王は、すべてのイスラエルの人々に使いをやって、バアルの預言者たちを集めました。多くのイスラエルの人たちも集まってきました。
エリヤは、イスラエルの人々に向かってこう言いました。

「あなたたちは、いつまで迷っているのですか。もし主(ヤハウェ)が神様なら、主に従いなさい。もしもバアルが神様だと思うなら、バアルに従いなさい。」

人々はなんと答えればよいかわからず、迷っていました。エリヤは続けます。

「私はたった一人残った、まことの主(ヤハウェ)なる神様の預言者です」

実は、それまでにアハブ王は、エリヤの同僚たちであるヤハウェの預言者たちを皆殺しにしてしまっていたのです。

「さあ、これから主なる神様こそ、本当の神様であることを知らせよう。2頭を雄牛を連れてきなさい。バアルの預言者と私が、それぞれ一つずつ祭壇を作ります。薪を置き、その上に裂いた犠牲の雄牛をのせ、お祈りをします。お祈りを聞いて、薪に火をつけてくださる方がまことの神様です。(マッチやライターを使ってはいけません。)
そして二頭の犠牲の雄牛を薪が用意されると、エリヤはバアルの預言者たちに言いました。

「あなたたちがよいと思うほうの雄牛を選んで準備しなさい。準備ができたら祈り始めなさい。」

450人のバアルの預言者たちは祭壇を作り、雄牛を裂いて祭壇にのせると、バアルに祈り始めました。

「バアルの神様、私たちの祈りを聞いてください。早くこのささげものに火をつけてください。」

朝から昼まで、祭壇のまわりを飛び跳ねたり踊ったりしながらお祈りしました。しかし火はつきません。エリヤは、これを見てからかって言いました。

「もっと大きな声で祈ったらどうだ。バアルは何か考えごとをしているのかもしれないぞ。それとも昼寝をしてるのかな。どこかへ出かけてしまったのかな。もしかすると、バアルはお前たちのことを嫌いなのかもしれないぞ。ハッハッハ」

バアルの預言者は、「何だとー」と言いながら、刀や槍で、自分の体を傷つけて、血を流してまでお祈りしましたが、火はつきませんでした。

(7)エリヤの番

午後3時になりました。選手交代です。

エリヤは人々をそばに呼び寄せて、石を積み重ねて、壊されていた主の祭壇を作り直しました。祭壇ができると、その上に薪を並べ、その上に裂いた犠牲の雄牛をのせました。祭壇のまわりには、溝を掘りました。そして4つの大きな瓶(かめ)に水を入れて犠牲の牛の上からかけました。1回、2回、3回も水をかけました。雄牛も薪もびしょ濡れです。

エリヤは静かに祈り始めました。アハブ王も、一緒にいた人々も、火がつくかどうか、じっと見つめていました。

「主なる神様、あなたこそがイスラエルのまことの神様であることをお示しください。また、私が神様のお言葉に従っていることを、ここにいる人々にお示しください。あなたこそ、まことの神様であることを信じるようにさせてください。」

(しばらく間を置く)

すると突然天から火がくだってきて、薪を燃やし、雄牛ももやし、溝にあふれていた水までなくなってしまいました。

そして人々はみんな「エリヤさんが信じている主が神様だ」と叫びました。

エリヤは言いました。バアルが神様ではないことがわかりましたか。これから雨が降ります」

(8)大雨が降る

その後、エリヤは祭壇よりも少し高いところに出て、地面にうずくまり、祈り始めました。

エリヤは、祭壇のところにいる一人の男の人に声をかけました。

「ここに来て、海のほうをよく見なさい。何か見えますか。」

「別に変わったことはありません。海と空が見えるだけです。」

エリヤは、またうずくまって祈りました。そしてその男の人にまた言いました。

「何か見えますか。」

「いや何も見えません。海と空だけです。」

そういうことが7回も続きました。すると、7回目に、その人が大きな声で叫びました。

「ご覧ください。人の手のひらほどの小さな雲が海のかなたから上って来ます。」

エリヤは大声で言いました。

「雨が降るぞ。はげしい雨が降るぞ。神様が雨を降らせてください。帰れなくならないうちに、急いで帰るように、みんなに告げなさい。」

雲はみるみるうちに大きくなり、カルメル山の上にまで広がってきました。あたりは暗くなり、大粒の雨が降ってきました。

「雨だ!雨だ!雨が降ってきたぞ!」

みんなは久しぶりの雨に喜んで、家へ帰って行きました。

(9)イゼベルから逃走するエリヤ

しかしエリヤ物語は、これで終わりません。19章です。

アハブ王ががっくりしていると、アハブ王の妻イゼベル王妃が怒って立ち上がりました。そして今度は彼女が兵士に命じて、エリヤを捕えようとするのです。

それを知ったエリヤは恐ろしくなって南のほうへ逃げていきました。遠くまで歩き続けたので、疲れ切ってしまいました。そして神様にこう祈りました。

「神様、私はイゼベルの家来に殺されるのは嫌です。どうかここ死なせてください。」

そう言うと、眠ってしまいました。眠っているエリヤのところに、御使いが来て言いました。「エリヤよ、起きて食べなさい。」

エリヤが目を覚ますと、そこにパンとかめにはいった水がありました。エリヤはそれを食べると、また眠ってしまいました。

「起きて食べなさい。これから長い、つらい、苦しい旅をしなければなりませんから。」

エリヤは御使いに言われたとおり、パンを食べ、水を飲むと、少し元気になって、歩き出しました。40日40夜、昼も夜も歩き続けて、エリヤはホレブの山のふもとに着きました。この山は、昔モーセが神様から十戒(十の戒め)をいただいた山です。シナイ山とも言われます。

エリヤはとても疲れていたので、ほら穴を見つけると、その中で、眠ってしまいました。

(10)かすかにささやく声

朝になった時、エリヤは神様の御声を聞きました。

「エリヤよ、あなたはここで何をしているのですか。」

「私は、神様の御用のために、力一杯働きました。しかし、イスラエルの人々は神様のために働く預言者たちを殺してしまい、私一人だけが残ったのです。そしてこの私までも殺そうとしているので、私は逃げて来たのです。」

すると神様は言われました。

「エリヤよ、そこから出て、山の中で私の前に立ちなさい。」

エリヤがほら穴を出ようとした時、激しい風が起こって、山が裂け、岩が砕けました。エリヤは、この激しい風の中に神様がおいでになるのかと思いましたが、神様はそこにはおられませんでした。

つぎに、大きな地震が起こりました。しかし地震の中にも神様はおられませんでした。

またしばらくすると、今度は火が燃えだしました。しかし火の中にも神様はおられませんでした。

激しい風、地震、火は、神様の臨在のしるしとされていたのです。モーセが十戒をいただいた時のシナイ山(ホレブ山)でも、そういうことが大きました。

しかしその後です。激しい風、地震、そして火が消えてしまった後、「かすかにささやく声」が聞こえてきました。

「エリヤよ、あなたはここで何をしているのか。

エリヤはさきの不安をもう一度神様に告げました。そうすると、神様はエリヤに何をすべきかを告げてくださったのです。

それは「今のアハブ王にかわる新しい人、ハザルという人に油を注ぎなさい」ということ、そしてエリシャという後継者を立てるから、その若者に油を注ぎなさい」ということでした。

そしてエリヤの仕事はエリシャに引き継がれていくのです。エリシャについては、できれば7月にお話をしたいと思っています。

さて、エリヤ物語を大急ぎでたどりましたが、聖書はその最後の部分で、神様の声が最後に聞こえてくる部分を読んでいただきました。

この激しい風、地震、火は、ペンテコステを象徴するものでもあります。神様が登場する前触れのようなものです。でも本当に大事なのは、そうした風そのもの、火そのものではないのです。その後で、聞こえてくる神様の御声です。これは注意して聞かないと聞き逃すかもしれない。しかし確かに神様は私たちに向かって語ってくださる。そして私たちが何をすべきか、どちらに進むべきかお示しくださる。それは直接ではないかもしれない。意外なところ、あるいは意外な人の口を通して語りかけられるかもしれない。私たちは、その声を聞き逃さないようにしたいと思います。

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