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「ハンナ・アーレント」 2012年 ドイツ他

第3回
「ハンナ・アーレント」
2012年、ドイツ他。114分 <監督> マルガレーテ・フォン・トロッタ

20世紀のユダヤ人女性哲学者ハンナ・アーレントについてわかりやすく紹介してくれる貴重な映画である。
映画は、1960年初頭、何百万人ものユダヤ人を収容所へ移送したナチス戦犯アイヒマンが、逃亡先のアルゼンチンで突然拉致される場面から始まる。彼はイスラエルへ移送され、そこで歴史的裁判が行われることとなった。
ハンナ・アーレントは、「ザ・ニューヨーカー」誌に取材を申し出、その裁判を傍聴することになるが、なかなか彼女のレポートは発表されない。彼女はアイヒマンが極悪人ではなく、全くの凡人であることに衝撃を受け、その存在とあの残虐行為の関係を熟考し続けていたのだ。彼女がようやく発表したレポートは世界を驚かせることとなる。それは「悪の凡庸さ」という言葉に集約される。それとユダヤ人の一部も犯罪に加担していたという報告も、ユダヤ人社会を怒らせた。
批判が渦巻く中、彼女が大学の講義の中で反論をする最後の場面は圧巻である。
「世界最大の悪はごく平凡な人間が行う悪です。そんな人には動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない。人間であることを拒否した者なのです。この現象を私は『悪の凡庸さ』と名付けました。」「人間であることを拒否したアイヒマンは、人間の大切な質を放棄しました。それは思考する能力です。……思考ができなくなると、平凡な人間が残虐行為に走るのです。……私が望むのは、考えることで人間が強くなることです。危機的状況にあっても、考えることで破滅に至らぬよう。」
今日の平和は、思考停止した現代人によって危機に瀕しているのではないだろうか。
(「からしだね」2015年8月号)

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