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菊地順著『M・L・キングと共働人格主義』

キングの思想を組織神学的視点で明らかに!

菊地順著 『M・L・キングと共働人格主義』(聖学院大学出版会)
評者=松本敏之

本書は、すでに『ティリッヒと逆説的合一の系譜』(聖学院大学出版会、2018年)を出版している著者の、渾身のM・L・キングの研究書である。著者によれば、前著はティリッヒ神学を借りた、著者の「信仰の理論編」であったが、本書は著者の「信仰の実践編」であるという。
本書は、「キングの行動の背景となった、知的確信に支えられたキングの信仰を、組織神学的視点から明らかにしようとするものである」(20頁)。全体は8章の本論と2章の補論から成り立っている。本論を中心に紹介したい。
「第1章 ダディ・キングとその信仰」では、キングの思想的背景の出発点として、父親の信仰、特に「憎んではならない」があったことを述べる。
「第2章 キングの聖霊論と時代精神」では、キングは聖霊についてあまり語ってはいないが、キングの言う「時代精神」(新たな時代を察知する力)こそ、「聖霊」に通じるものとして「聖霊論」を展開する。
「第3章 キングの神論と人格主義思想」は、主にキングの博士論文を扱う。1990年、キングの博士論文に多くの剽窃が見つかり大問題となった。著者は、剽窃はあってはならないが、倫理的評価はキングの全生涯に対してなされなければならないとし、学問的にも、なお価値があるとする。特に、「神は善においては無限であるが、力においては有限である」という神概念と、「神は人間を通して、人間と共働する仕方で、悪に対して戦う」という共働人格主義は、後の公民権運動の基礎ともなったと述べる。
「第4章 キングの人間論と人格」では、キングが人間をどのように理解していたかを問い、「神の像」として自由を持つ「人格」と人間(特に黒人)の尊厳について述べる。
「第5章 キングの神人共働論と『神の子』」では、キングの「神人共働論」が、救いの達成についてのいわゆる「神人協力説」とは違うことを明確にした上で、「人間には神の恩寵の下で歴史を変える力と責任があり、またその力もある」というキングの人間性への信頼と信仰的楽観主義を詳述し、それらが「非暴力直接大衆運動」を生み出したと述べる。
「第6章 キングのキリスト論と愛の概念」は、「聖霊論」「神論」に続く「キリスト論」を扱う。キングにおいては、キリストは端的に「愛」として理解され、最終的に目指された「愛の共同体」の内実でもあると言う。
「第7章 キングの非暴力論と人類の法(のり)」では、キングが堅持した非暴力の思想を、キングの具体的な歩みに触れて検討し、その精神と歴史に働く救済の原理を探る。
「第8章 キングの見た夢―愛の共同体」は、いわば終末論である。キングの見た夢が、キリスト教を背景とし、アメリカの独立宣言と合衆国憲法に深く根ざす夢であったとし、それがキングの社会行動の力の源泉となったと述べる。この章には著者の信仰が最もよく表れていると思う。
本書は、筆者の知る限り、キングの思想を正面から組織神学的に論じた最初の日本語の書物である。その意味でも、キングの思想を神学的に整理し、理解しようとするすべての人たちにとって優れた指針となることは間違いない。
「本のひろば」2021年9月号掲載

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