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「その手に触れるまで」 2019年 ベルギー・フランス

世界の映画 映画の世界 
第75回
「その手に触れるまで」
2019年 ベルギー・フランス84分
〈監督〉ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
原題:Le jeune Ahmed

これまでさまざまな社会問題を取り上げて、カンヌ国際映画祭の数々の賞を受賞してきたダルデンヌ兄弟監督。今回は、現代ヨーロッパ社会の大問題となっているイスラム過激主義を取り上げる。
 日本の現実からかけ離れたテーマのように思えるが、「教育とは何か」、「信仰とは何か」という普遍的な問いを突き付けつつ、私たちの心を大きく揺さぶる。
 作品の舞台はベルギー、ブリュッセル郊外のモレンベークという小都市である。住民のうち5割程度がイスラム教徒、地域によっては8割を占め、その多くがモロッコ系だという。

 13歳のアメッドはごく普通の少年であったが、イスラム原理主義の「導師」の影響で全く変わってしまった。母親は、「これまではゲーム三昧だったのに、導師に洗脳されて以来、部屋で祈ってばかり」と嘆く。〈放課後クラス〉のイネス先生に対しても「大人のムスリムは女性に触らない」と言って握手もしなくなった。
 イネス先生はアラビア語の歌謡曲を用いて現代のアラビア語を学ばせようと提案するが、アメッドの導師は「あの女教師は背教者だ。預言者の言葉を歌で学ぶなど冒涜的だ。その教師は聖戦の標的だな」と扇動する。
 アメッドはイネス先生をナイフで刺そうとして少年院に送られる。農場実習での少女ルイーズとの出会いが、一瞬彼の表情をなごませるが、それも束の間。アメッドは先生を刺すことをあきらめておらず、実習からの帰り道で脱走してイネス先生のもとへ向かう。予想外のラストシーンまで目が離せない。BGMなしで緊張したまま物語が展開した後、エンディングロールで流れるシューベルトのピアノ・ソナタが心に染み渡る。

ポスター画像

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