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川端純四郎著 『CD案内 キリスト教音楽の歴史』(1999年、日本キリスト教団出版局) (「本のひろば」1999年7月号掲載)

〈キリスト教2000年の音楽史をCDで聴く〉
評者=松本敏之

著者は、東北学院大学キリスト教学科で、長年宗教学を講じてこられ、今年(1999年)3月に退職された学者である。また、音楽の面では日本基督教団仙台教会のオルガニストとして、すでに46年間奉仕され、日本キリスト教団出版局讃美歌委員でもある。「牧師の子」であることも手伝って、「教会音楽の現場を隅から隅まで知って」おられる。『CD案内 キリスト教音楽の歴史』は、このような著書にして初めて書き得た貴重な本である。15章のうち、第13章まではだいたい時代順に書かれており、次のような題が掲げられている。「キリスト教音楽の起源」、「グレゴリオ聖歌の喜び」、「ポリフォニーの楽しみ」、「イタリアバロックの響き」、「イギリスバロックの典雅」、「フランスバロックの華麗」、「宗教改革と信仰の自由の歌」、「ドイツバロックの深淵」、「バッハを聴く浄福」、「ヘンデルの豪華」、「ウイーン古典派の高峰」、「19世紀のキリスト教音楽」、「20世紀のキリスト教音楽」。これに、「東方教会の神秘の音楽」、「『詩編』と『主の祈り』の音楽」の2章が終わりにつけられている。

この本は、さまざまな読み方がありうる。まず「キリスト教音楽を、何から聴いていいかわからないという方」には、キリスト教音楽という広大な海のよき航海図となるであろう。レコード屋に行ってはみたものの、莫大な量のCDに圧倒されて途方に暮れた経験をお持ちの方は多いのではなかろうか。「キリスト教音楽史全体を概観したい方」「自分の好きな音楽が音楽史上のどの辺に位置するか知りたい、また同じような音楽をもっと聴いてみたい方」にも有益である。次に「クリスチャンで、クラシック愛好家であるが、この二つが自分の中で結びついていないという方」にも意外な発見があるに違いない。教会生活に親しい「主の祈り」や「詩編」だけをとってみても、数々の音楽がつくられているのである。第三に「音楽は大好きだが、信仰のことはよくわからない。しかし気になるという方」。その通り。信仰と関係なく、キリスト教音楽を聴いても、その価値が半分しかわからない。この本をきっかけに、教会に親しみを持っていただきたい。最後に「キリスト教音楽をかなり聴いてきたと自負する方」。わずかな情報も見逃さないあなたは、きっとすでにこの書物を手にしておられることであろう。そういう人にも、この本は間違いなく珍しい情報を満載している。また著者の趣味と自分の趣味を比べてみる楽しみもあろう。

さて著者には知る人ぞ知るもう一つの顔がある。平和運動、反核運動、人権運動に積極的にかかわり、「日本共産党を応援する宗教人の会」の世話人をつとめ、現在は「新ガイドライン反対キリスト者連絡会」の事務局もつとめられる。そうした立場で、日本基督教団の常議員も25年つとめられた。この三つ目の顔は、一見この本と関係がないように見えるが、実はそうではない。筆者が、ある委員会で著者とご一緒した折に、「よくこれだけあらゆる時代の音楽をお聴きになれますね」と尋ねると、こう答えられた。「教団紛争問題に20数年かかわる中で、もう一度教会史、教理史全体を深く勉強させられた。教会の歴史は礼拝の歴史、礼拝の歴史は賛美の歴史であり、全体を意識的に聴くことになった」。

著者のCDコレクションは何と5千枚にのぼるという。5千枚というのは、聴くだけでも並大抵の事ではない。仮に一日一枚のペースで新しいCDを聴いたとすれば、13年9ヶ月かかるのである(しかも考えてみればCD が生まれてから、せいぜい15年にしかならないではないか)。この本はその莫大なコレクションの中から、数千枚のCDが紹介されている。その情報がCD廉価版1枚の値段で得られるのであるから、これはお買い得である。
(「本のひろば」1999年7月号)

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