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松本敏之著『ヨハネ福音書を読もう下 神の国への郷愁(サウダージ)』石田学評

松本敏之著 『ヨハネ福音書を読もう下 神の国への郷愁(サウダージ)』
(日本キリスト教団出版局、2022年)

キリストと共に現代世界を旅するための手引き書
〈評者〉石田 学 

 説教集とも聖書研究とも違う、著者である松本敏之牧師の明確な信仰的立ち位置と確信に満ちた、ヨハネによる福音書についての珠玉の著作に出会うことができた。
 ヨハネ福音書10章までを収録した上巻は昨年の12月に刊行されている。9月に刊行された下巻には11章以降が収録され、上下巻を通して福音書全体が84の章によって解説されている。上下巻をとおして読むことで、ヨハネ福音書の全体像が理解できる。しかし、ただのストーリー紹介ではない。一つ一つの黙想が現代世界の問題や課題と関連づけられているので、ヨハネ福音書が現代のわたしたちに語りかけていることを実感できる。

 本書を読み、ヨハネ福音書に記された主イエスの旅と共に、福音書のメッセージに深く思いをめぐらせる、黙想の旅とでも言うべきものを体験した。著者が読者をこのような旅の体験へといざなっていることは、上巻の「はじめに」で著者自身が「それでは、ヨハネ福音書を読む旅に出かけましょう」と呼びかけていることからも明らかであろう。わたしは、著者をツアーガイドとする霊的な旅をしているかのように感じながら、本書を読ませていただいた。平易な言葉づかいと映像的なイメージで語られる各章は、現代世界と教会への問いかけと呼びかけに満ちている。牧師信徒を問わず、信仰の養いとなるはずである。
 現代社会はめまぐるしく変動し、時間的にも精神的にも、人々を絶えず何かに駆り立てる。多くの信仰者は霊的な黙想の必要を感じながらも、忙しさとゆとりのなさに追われ、黙想のための時間を取ることがないままに日々を過ごしているのではなかろうか。本書は、しっかりとした聖書の知識に基づきつつ、想像力とユーモア、そして何よりも洞察に満ちた黙想の手引き書である。1つの章が5ページ程度なので、各章を読むのに時間はかからない。読んだ後に短い黙想の時を持つのもよいし、強く想像力をかき立てられた時には、思いのままに長い黙想の時を持つのも素晴らしい経験となるだろう。
 本書でわたしが特に心を動かされたのは、次の二点である。まず著者自身の体験がヨハネ福音書の主イエスの言葉や行いと関連づけられていること。たとえば58章「聖霊は今日も働く」で、著者はコンゴ共和国出身のアルセンヌ・グロジャさんが特別在留許可を得るまでの活動をとおして、聖霊の働きを強く感じ、「私の信仰に再び火を付けてくださった」(97頁)と語る。聖霊の働きが抽象的な概念ではなく、具体的な出来事として実感された証は、筆者にも聖霊の働きが具体的に体験されるものであることを思い起こさせてくれた。
 もう一点は、本書全体をとおして、現代世界の問題と課題が信仰の光で照らされていることである。たとえば64章「神の国へのサウダージ」は、信仰者が信仰的な旅の目的地をどこに置き、何に郷愁を抱くのかを、キリストによる解放の希望に満ちた賛美をとおして、改めてわたしたちに思い起こさせてくれる。
 本書は、ヨハネ福音書の物語る主イエスとの対話と、現代世界と神の国との対話へと読者を導く。キリストと共に現代世界を旅するための、最良の手引き書であろう。
(いしだまなぶ=日本聖書協会理事長、元日本ナザレン教団小山キリスト教会牧師)
「本のひろば」2023年1月号掲載

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