「イニシェリン島の精霊」 2022年 イギリス
第98回
「イニシェリン島の精霊」
2022年 イギリス 114分
〈監督〉マーティン・マクドナー
〈原題〉The Banshees of Inisherin
舞台は1923年、アイルランド西海岸沖のイニシェリン島という架空の島。対岸の本土は、せっかくイギリスからの独立を果たしたのに、今は内戦に揺れている。
イニシェリン島は、全員が顔見知りの小さな島で、本土とは対照的に、のどかで退屈な毎日が続いている。時折、遠くから砲弾の音が聞こえ、煙が上がるのが見える。
陽気なパードリックとやや陰気なコルムは好対照な性格であるが、親友であった。しかしある日突然、パードリックはコルムから絶縁を告げられる。よりを戻したいパードリックは、コルムに近づこうとするが、コルムは「お前が話しかけるたびに、私は自分の指を一本ずつ切り落とす」と宣言し、実際に自分の指を切り落としてはパードリックの家の扉に投げつけていく。この狂気じみた行動や島の退屈さに耐えられなくなったパードリックの妹シボーンは島を出て行く決心をする。
タイトルで「精霊」と訳された元の言葉「バンシー」とは、アイルランドの民間伝承に登場し、死が近いことを知らせる女妖精である。映画では、マコーミックという老女に、「バンシー」が宿っているようである。彼女は、「この島に二つの死が訪れる」と不気味に予言する。
事態は取り返しのつかない方向へ発展していくが、誰も止めることはできないし、なぜそうなってしまったのかもわからない。
この物語は対岸のアイルランド内戦を投影する寓話のようになっているのだろう。昨日まで親友だった人々がある日突然敵になり、取り返しのつかない事態に発展していく。ある人々はそれに耐えられず、国を出て行く。いやそれは現代でも世界のあちこちで起きていることであろう。
