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善き人のためのソナタ(信徒の友2009年4月)

2006年 ドイツ
監督/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演/ウルリッヒ・ミューエ,
セバスチャン・コッホ

「魂の苦しみを知るのは自分の心。その喜びにも他人はあずからない」(箴言14・10)
1984年の東ベルリン。国民は、国家保安省(シュタージ)の監視下にあった。特に芸術家に対する監視は厳しく、劇作家ゲオルク・ドライマンも目をつけられていた。彼には芸術家の仲間たちがおり、女優の恋人がいる。物語の中心は、ドライマンを中心に、彼らがいかにこの非人間的な体制と闘い、人間愛を保ち続けるかであるように見える。
しかし彼らの知らないところで、もう一つのドラマが進行していた。ドライマンのアパートには盗聴器が仕掛けられ、彼の全生活は克明に記録されていたのである。(ちなみに原題の直訳は「他人の生活」)。その任務にあたったのは、シュタージのヴィースラー大尉。国家と党に忠誠を尽くす、氷のように冷たい心の男であった。しかし盗聴を続けるうちにヴィースラーの中で何かが変わっていく。
ドライマンは、親友イェルスカが追い詰められて自殺したことを知り、イェルスカがくれた「善き人のためのソナタ」の楽譜を開いて、恋人の前で弾き、こう語った。「この曲を本気で聴いた者は、悪人になれない。」盗聴していたヴィースラーの目から涙がこぼれ落ち、彼は違った目的のために動き始めた……。
やがてベルリンの壁が崩壊し、ドライマンはすべてを知るのであるが、そこでドライマンのとった行動は、心憎いものであった。その配慮に対するヴィースラーの最後の言葉は、さらに心憎く、格好いい。
ヴィースラー役、ウルリッヒ・ミューエの演技は見事である。にこりともせず、目と表情の小さな動きだけで、さまざまな感情を表現する。彼は2007年に胃がんのために54歳で逝去したという。平安を祈る。
松本 敏之
(「信徒の友」2009年4月号)

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