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2025年3月2日説教「忍耐によって命を得る」松本敏之牧師

詩編46編1~12
ルカ福音書21章5~24節

(1)黙示文学

ルカ福音書を続けて読んでいます。今回のルカ福音書21章5節以下は、少し難しい言葉で言えば、黙示的説話と呼ばれるものです。またもっと広く言えば、黙示文学というものに属するものです。「黙示」という言葉はヨハネの黙示録で恐らくご存じのように、「黙って示す」と書きます。ただし何も言わないで、黙って差し出すという意味ではありません。「黙示」というのは、隠されている秘密を明らかにするというような意味です。その隠された秘密というのは、たとえば自然の法則であるとか、天上の秩序というようなことも含まれます。ただしそういうことも含みながら、黙示文学が集中して語るのは、「世の終わり」の秘密についてです。その点が、一般的な「啓示」と違う点でもあります。「啓示」というのは、神さまの言葉が私たち人間に「啓(ひら)いて示される」ことですから、聖書全体が「啓示の書」という風に言える訳ですが、その中で特に「黙示」というのは、空想的とも言えるようなさまざまな表象を用いながら、集中して世の終わりについて語るのです。その点で、一般的な「預言」とも少し違うのです。

旧約聖書ではダニエル書が、この黙示文学の最もまとまったものであります。その他にもエゼキエル書の一部が黙示的手法によって書かれています。新約聖書では言うまでもなくヨハネの黙示録が、この黙示文学の代表です。しかしその他にもこのルカ福音書21章や、並行箇所のマタイ福音書の24章、そしてそのもとになっていると言われるマルコ福音書の第13章が、この黙示文学に属するものです。

このところは、福音書の他の部分に比べて、読みにくいものであろうかと思います。そのまま読んでも意味がよくわかりませんし、現代の私たちになかなかぴんと来ません。聖書に長年親しんでこられた方でも、黙示文学というのは、なかなか頭に入らないで、つい読み過ごしてしまうのではないでしょうか。「ここが自分の愛唱聖句です。好きな箇所です」という方は恐らくあまりおられないでしょう。

しかしここには、今日においても、いや今日においてこそ、決して読み過ごすことのできない大切な言葉がたくさん含まれています。この機会に、聖書は終末について何と言っているのかを、心にとめたいと思います。

(2)エルサレム神殿の崩壊と世の終わり

さて、それでは今日のテキストを見てみましょう。

「ある人たちが、神殿が見事な石と奉納物で飾られていることを話していると、イエスは言われた。『あなたがたはこれらの物に見とれているが、積み上がった石が一つ残らず崩れ落ちる日が来る。』」ルカ21:5~6

エルサレム神殿は、見るものを圧倒するほど荘厳かつ華麗な建物であり、いかにも永遠に続くもののように見えたのだろうと思います。この世の繁栄の極致とでも言うべきものがそこにあったからです。ところが、主イエスはそれに水を差すように言われました。ややこしい言い方ですが、「この石造りの神殿の石がものの見事に崩れ去る時が来る」ということであります。この言葉は、直接的には紀元70年に実際に起きたエルサレム神殿崩壊を予言した言葉であると言えます。紀元70年、エルサレムはローマ帝国の軍隊によって陥落し、神殿は炎上しました。福音書が書かれたのは、この紀元70年よりも後であると言われますので、福音書記者たちが、このイエス・キリストの預言ともいうべき言葉を福音書の中に記した時、そのことと重ね合わせて、厳粛な思いをもってこれを記したことであろうと思います。

ただこの時の弟子たちには、まだそのようなことは誰も想像もつきませんので、イエス・キリストの語られた意味深長な言葉が気になって仕方がありません。ついに、イエス・キリストにひそかに尋ねました。

「先生、では、そのことはいつ起こるのですか。また、それが起こるときには、どんな徴があるのですか。」ルカ21:7

弟子たちにとっては、エルサレム神殿が崩壊するということは、即ち、世の終わりと考えたのでしょう。もしもそんなことが起きるとすれば、それは世の終わりの日に違いない、と思ったのです。神殿こそは永遠、神殿こそはまさに神さまのおられるところ、神さまの住まいと考えられていたからです。

ですからこの最初の質問の「いつ起こるのか」というのは、確かに神殿崩壊に関係していますが、それだけではありません。「世の終わりがいつ来るのか」という問いも含まれていたのでしょう。そこから話の比重は、自然に世の終わりの方に移っていきます。

「世の終わりが来る」と聞くと、それは一体いつ来るのか、というのが誰しも一番聞きたいところかも知れません。ところが、イエス・キリストは、「いつ」という問いに対しては答えておられません。マタイ福音書の並行箇所では、「その日、その時は誰も知らない。天使たちも子も知らない。ただ父だけがご存じである」(マタイ24:36)と言っておられます。ですから、誰にせよ(エホバの証人、ノストラダムスの大予言など)、イエス・キリストもご存じないものを、私たち人間がそれはいついつだというのは、傲慢であると、私は思います。

(3)世の終わりの徴候

ルカ福音書21章7節以下、21章全体にわたって、いよいよこの弟子たちの質問に対する主イエスの答が記されています。先ほどは24節までをお読みいただきましたが、今日は特に19節までのところについてお話しいたします。このところを更に二つに区切ることができます。

まず11節までのところですが、ここに出てくるのは「世の終わり」の時代の、一般的な前兆とでも言うべきものです。その中の一つ目は「偽キリスト(偽メシア)」の出現です。

「惑わされないように気をつけなさい。私の名を名乗る者が大勢現れ、『私がそれだ』とか、『時が近づいた』とか言うが、付いて行ってはならない。」ルカ21:8

これなどは、まさに現代の状況を言っているように思えます。世間を騒がせたオウム真理教、そして今も続いている統一協会などの教祖は、いずれも過去の人となりましたが、彼らは絶対的なカリスマをもっていて、そのような中から破壊的なカルト宗教が造られ、多くの人が巻き込まれていました。しかし統一協会の問題はまだ続いていますし、同じようなカルト宗教が新しく生まれています。

次は「戦争や騒乱のうわさ」です。これも非常に今日的です。80年代の後半、ベルリンの壁が壊され、冷戦構造が崩れ、これからは戦争のない時代、少なくともアメリカ合衆国対ソビエト連邦の世界戦争はもうない。世界がひとつになって行くであろうというをもって、それを歓迎しました。ところが、その後はどうなったか。そういう圧倒的な力をもった国によって抑えられていたものが、あちこちで噴出いたしまして、1990年代以降は地域紛争の爆発した時代になってしまいました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻。イスラエルのガザへの攻撃。ミャンマーなど、軍事政権が自国民を抑圧することも、あちこちにあります。実に世界のあちこちで、毎年どころか月単位で新しい戦争が起こっているように思えます。昨日の米国のトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談はとても残念な結果に終わりました。

しかし主イエスは「慌てるな」と言われます。

「こうしたことは、まず起こるに違いないが、それですぐに終わりが来るわけではない。」ルカ21:9

「民族は民族に、国は国に敵対して立ち上がる。また大地震があり、方々に飢饉や疫病が起こり、恐ろしい現象や天から大きな徴が現れる。」ルカ21:10

民族と民族の戦争、国家と国家の戦争に加えて、飢饉や地震が起こると言うのは意味深長です。地震そのものは自然災害ですが、今日の地震の被害は大昔よりもはるかに大きくなっています。それは大都市への人口集中や高層ビルの建設、さらに原子力発電所を巻き込むと大変な被害になっていきます。単純に自然災害とは言えない。

また飢饉にしても、その主な原因である農作物の不作は自然災害と言う面が強いでしょうが、例えば飢餓と言うことであれば、食物の分配の偏りによるものが大きい。つまり食物は十分にあるのに飢餓が起きてくるということです。ましてやそれが戦争のゆえに農作物が作れなかったり、戦争のゆえに、食物の分配が政治的に利用されたりすることもあります。世の終わりの前にはそういうことが起きてくる。そういうことではないでしょうか。しかしそうした出来事そのものが世の終わりではないということで、世の終わりの前兆に過ぎないというのです。

(4)信仰をもつことで迫害を受ける

そして後半の12節以下に入ります。12節以下に書いてあることは、その前の一般的前兆というのではなく、信仰者の共同体、つまり教会あるいはクリスチャンに対して語られた言葉であります。まず12節です。

「しかし、これらのことがすべて起こる前に、人々はあなたがたを捕らえて迫害し、会堂や牢に引き渡し、私の名のために王や総督の前に引っ張っていく。」ルカ21:12

イエス・キリストへの信仰のゆえに迫害を受ける。教会の外からの迫害です。

これは古代ローマ帝国においても起きたことですし、戦前戦中の日本においても起きたことでした。この世界のあり方は、必ずしもイエス・キリストの指し示した道と同じように進んでいるとは限りません。いやむしろイエス・キリストが指し示した神の国からだんだんと遠ざかっているようにさえ見えます。共に生きるよりも、誰かのもとに従属して生きなければならないような状況。少数の人たちが世界の行方を牛耳って、あとの大半の人々がそれに隷属するように、今世界は二分化しつつあります。

そうした時代に、私たちクリスチャンが、本当に信仰を誠実に貫いて生きようとする時に、言葉を換えて言えば、地の塩として生きようとすれば、さまざまな形でこの世の多数の人の考えに逆らって立たたざるを得ない時があるのではないでしょうか。

(5)戦時中のドイツの教会と日本の教会

1930年代、ドイツはナチスが政権を取り、ヒットラーのもとに軍国主義まっしぐらに進んでいきました。教会も当然そうした中に巻き込まれていきます。教会はドイツ国家教会という名の下にまとめられました。ドイツ国家教会は、国のアーリア主義に乗っ取って、運営をするように言われました。具体的には、「ユダヤ人を排斥せよ。ユダヤ人牧師を追放せよ」という命令が出されます。そのうちに、更に「ユダヤ人を捕まえるのに協力せよ」というふうになってきます。自分たちの信仰にもとるような命令が次々に出されるのです。それに従順に従う教会は、優遇されましたが、それに従わない教会は、迫害されました。

ボンヘッファーたち良心的なクリスチャンは、ドイツ国家教会と別に、ナチス・ドイツに従わない告白教会運動というのを始めていきます。その理想は高いものでした。ところがナチスのアメとむちの政策で、この告白教会運動が次第に骨抜きにされていきます。1930年代の後半にはその運動は内側から挫折し、見事に崩壊していきました。内部告発者があらわれます。そして自分たちも「あるところでは、譲ってもいいのではないか」として、一人、二人と告白教会を去っていきました。

マタイ福音書の並行箇所では、「その時、多くの人がつまずき、互いに裏切り、憎み合うようになる」(マタイ24:10)と、内部分裂が起きると告げています。私はこの文章を読んだときに、真っ先にその告白教会運動の挫折を思い起こしました。多かれ少なかれ、日本でもそういうことが起こりました。ホーリネス教会の人々が「イエス・キリストが帰ってきたら(再臨)、天皇とキリストとどっちが偉いか」と問われて、愚直にも「キリストだ」と答えて、大きな迫害を受けました。その時、すでに成立していた日本基督教団の多数派の教会は、それに連帯するのではなく、「いやあの人たちの信仰は、ちょっと変わっているんです。私たちとは違って、片寄っているのです。天皇とキリストは、全く次元の違うお方です。比べることなどできません」とか言って、信仰の仲間を切り捨てていったことは、私たちの教会の大きな痛みであります。

(6)命を得る道

ルカ福音書でも、マタイとは少し言い方が違いますが、こう言っています。

「あなたがたは、親、兄弟、親族、友人にまで裏切られ、中には殺される者もいる。また、私の名のために、すべての人に憎まれる。」ルカ21:16

ルカ福音書では、そのように信仰のゆえに迫害を受けるということを強調しつつ、励ましの言葉がかけられます。

「それは、あなたがたにとって証しをする機会となる。だから、前もって弁明の準備はするまいと。心に決めなさい。どんな反対者でも、対抗も反論もできないような言葉と知恵を、私があなたに授けるからである。」ルカ21:14~15

この言葉は、世の終わりの時に起こることとして語られていますが、同時に、ルカ福音書が書かれた当時の状況が反映されているのでしょう。信仰共同体、生まれたばかりの教会は周囲から迫害を受け、内部分裂も起きかねない状況でした。しかし「あわてるな。動揺するな。言うべき言葉は与えられる。私が味方に付いている」と励まされたのです。そのことは、現代社会に生きる私たちにも向けられている言葉です。この言葉に私たちも勇気づけられて、進んで行きたいと思います。

今日のルカ福音書21章の言葉は、一方で私たちを恐れさせるような言葉であるかもしれませんが、他方でこの言葉を語っておられるのは誰かということに目を向けたいと思います。それはイエス・キリストです。私たちに最後の勝利をもたらし、喜びをもって世界を完成すると、約束してくださったお方が、この言葉を語っておられる。そしてそのお方がすでに、私たちのこの世界において共に歩み、私たちに神の武具を身に着けよ、と語り、共にいてくださる。そこにすでに大きな慰めと励ましが与えられているのではないでしょうか。私たちはいろんな情報にうろたえてはならない。いろんなことで、びくびくしてはならない。かと言って逆に、そうしたことに心が冷えて、無感動であるのでもない。忠実にイエス・キリストの弟子として、イエス・キリストが約束されておられる御国を仰ぎ望みながら、その道をたゆまず歩んでいくものとなりたいと思います。

最後の励ましの言葉を分かち合いたいと思います。

「また、私の名のために、すべての人に憎まれる。しかし、あなたがたの髪の毛一本も失われることはない。忍耐によって、あなたがたは命を得なさい。」ルカ21:17~18

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