ジョン・W・デ・グルーチー『キリスト教と民主主義』
ジョン・W・デ・グルーチー著、松谷好明・松谷邦英訳
『キリスト教と民主主義 現代政治神学入門』(新教出版社)
本体価格:3,600円 発行年月:2010/02/25
歴史的価値をもつ書物
松本 敏之
この書物の性格と意義を知るために、デ・グルーチーとは誰かということから始めるのがいいかも知れない。デ・グルーチーは、南アフリカの白人神学者であるが、かなり早い段階からアパルトヘイトに明確な「否」を語り、南アの反アパルトヘイト民主化闘争を理論的・神学的に支えてきた人物である。1979年には『南アフリカにおける教会闘争』(以下、題名仮訳)を、1983年には、『アパルトヘイトは異端である』(共著)を出版している。その源泉にあるのは、D・ボンヘッファーの神学である。私が最初に読んだのも『ボンヘッファーと南アフリカ-対話における神学』(1984)という書物であった。今も、国際ボンヘッファー協会のリーダー的存在であり、第9回国際ボンヘッファー大会(2004年、ローマ)では基調講演を行った。
この書物は、そうした歩みを踏まえつつ、より広い普遍的な視点で、「民主的で公正な世界秩序を求める現代の闘争において教会が果たす役割は何か」ということを考察する。そして「キリスト教」と「民主主義」の積極的な関係を明らかにしようとする。
本書第二部において、キリスト教と民主主義の歴史的関係を振り返り、第三部では、20世紀後半における五つの民主化闘争を取り上げる。それらは、「アメリカ合衆国における公民権運動」、「ニカラグアにおける民主主義と解放闘争」、「サハラ以南アフリカにおける植民地独立後の民主化闘争」、「東ドイツの民主革命」、そして「南アフリカの反アパルトヘイト運動」である。そこには響き合うものがある。
著書は、広範な資料を取り上げつつ、非常に緻密な議論をするので(例えば<システム>としての民主主義と<ヴィジョン>としての民主主義を区別する)、難解な部分もあるが、さきに述べたような彼の背景を知っていれば、本書のめざすところもつかみやすいであろう。神学校のゼミや牧師会などで読むのにもふさわしい、歴史的価値をもつ書物である。
「ミニストリー」2010年