「ブレードランナー」 1982年 アメリカ
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第36回
「ブレードランナー」
1982年 アメリカ 116分
<監督>リドリー・スコット
最近わけあって、何らかの形で聖書に関係のあるハリウッド映画を集中して観ている。この映画もそうである。
舞台は、未来都市ロサンゼルス。過酷な労働は、宇宙植民地において、「レプリカント」と呼ばれる人間型ロボットが担っている。最新のレプリカントの身体的能力は、人類よりもはるかに勝り、知的能力もそれを開発した技術者とほぼ同じである。見た目も人類と区別がつかないが、寿命は4年間と定められている。人類が彼らに感情移入しないため、また彼らに地球を乗っ取られないためである。
ブレードランナーとは、脱走したレプリカントを見つけ出し、退役させる(殺す)役人である。ブレードランナーのデッカードは、逃亡した4人のレプリカントの「退役」を命じられる。
詳細は省くが、映画は全体として聖書的暗示に富んでいる。圧巻はデッカードと最後の逃亡レプリカント、ロイの対決場面である。
ロイは意識が薄れそうになるのをこらえるため、自分の掌に釘を突き刺して、デッカードと闘う。最後にデッカードのほうが力尽きてビルの屋上から落ちかけるのだが、不思議なことにロイが釘の刺さった手を差し伸べて、デッカードを助けるのである。そして「時が来た」と言って、笑みを浮かべて息を引き取っていく。十字架上のイエスを暗示しているのだろう(ヨハネ19・30、20・25等)。
雨が激しく降りしきる中、ロイの手から鳩が飛び立っていくが、これは洪水物語とその後の平和を暗示しているのだろう(創世記8・12等)。この場面はヤコブの謎の相手との格闘(創世記32章)を思わせるが、デッカードが愛したレプリカントの名がレイチェル(ラケル)だということも、ヤコブの最愛の妻の名と同じで興味深い。