「誰のせいでもない」 2015年 ドイツ、カナダ
世界の映画 映画の世界
第35回
「誰のせいでもない」
2015年 ドイツ、カナダ他 118分
<監督>ヴィム・ヴェンダース
「わたしは……へりくだる霊の人に命を得させ、打ち砕かれた心の人に命を得させる。……わたしは彼の道を見た。わたしは彼をいやし、休ませ、慰めをもって彼を回復させよう」(イザヤ57・15、18)。
若い作家のトマスは、モントリオール郊外で、大雪の夜道を運転していた。突然目の前に飛び出した何かに気づいて、急ブレーキを踏む。車の前には小さな男の子がしゃがみこんでいた。幸いけがはないようである。トマスはほっとして、その子を家まで送り届けた。しかし玄関で顔を出した母親のケイトは、取り乱して家を飛び出していった。実はその子は弟と一緒にそりに乗っていて、トマスはその弟を轢いてしまっていたのだ。
物語は、トマス、そしてケイトと息子クリストファーのその後の12年間を断片的に辿っていく。事故と言えば、事故なのだが、それで事がすむものではない。トマスは罪責感を抱え込み、結局恋人とも別れることになる。しかし作家としては成長し、作品は深みを増していく。一方のケイトは悶々とした日々を過ごし、悪循環の中、生活は悪くなる一方であった。
ある日、トマスはケイトを訪ね、「あの日をやり直せるならどんなことでもする」と告げる。父親がおらず、作家志望のクリストファーは、トマスに対して、あこがれとうらみという複雑な気持ちをもつようになっていく。
誰のせいでもない。結局はそれぞれに乗り越えていくしかない。ラスト数分間に救われる思いがする。
「ベルリン・天使の詩」「ランド・オブ・プレンティ」など数々の名作で知られるヴィム・ヴェンダース監督の新作。2016年ベルリン映画祭金熊名誉賞を受賞している。