「ノマドランド」 2020年 アメリカ
世界の映画 映画の世界
第74回
「ノマドランド」
2020年 アメリカ 108分
〈監督〉クロエ・ジャオ
原題:Nomadland
この映画は、現代アメリカ社会の「ノマド」(遊牧民)、すなわち家をもたず、ヴァンやキャンピングカーで移動しながら生活する高齢者たちの姿を描く。
ノマドになる事情はさまざまである。主人公ファーンの場合は、ネバダ州の田舎町で巨大企業が倒産し、家を手放さざるを得なくなったことをきっかけに、亡き夫の想い出の品などわずかな物を携えて車上生活をすることとなった。仕事を求めて転々とし、年末には〈アマゾン〉の巨大配送倉庫で、行楽シーズンには遊園地で働く。過去の痛みを抱え、苦しい生活をしながらも、雄大な自然の中で希望を失わずに生きようとする姿に心を打たれる。
ボブ・ウェルズは、ノマドたちのリーダー的存在である。ボブが主宰する集会に、各地からノマドたちが集まり、励まし合い、また新たな力を得て出発する。
ファーンがボブに、夫ボーの想い出を語った時、ボブは息子を自死で死なせてしまったことを語り始めた。
「長い間、なぜ私は息子のいない世界で生きているのかと問うてきた。答えはなかった。苦しかった。でも気づいたんだ。人を助けることが息子の供養になる。生きる気力になると。ノマドの生き方が好きなのは『さよなら』と言わないこと。『またどこかで』と言う。だから私は信じていられる、また息子に会えると。君もまたボーに会えるよ。」
「(この人たちは)約束のものは手にしませんでしたが、はるかにそれを見て喜びの声を上げ、自分たちが地上ではよそ者であり、滞在者であることを告白したのです……。彼らはさらにまさった故郷、すなわち天の故郷にあこがれていたのです」(ヘブライ11・13~16)。