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ジェイムズ・H・コーン著/榎本空訳 『誰にも言わないと言ったけれど』(新教出版社、2020年) 評者=松本敏之

〈今、最も読まれなければならない本〉

5月25日、米国ミネアポリスにて、白人警官による黒人の暴行殺人事件が起きた。その後、これに対する抗議活動がアメリカ全土に、そして世界に広がっていった。私たちはこの問題とどう向き合えばよいのか。これは信仰の問題と関係があるのか。本書はその背景にある黒人差別の実態を知らせ、解決の道がどこにあるかまで示唆してくれる。その意味で本書は、今最も読まれなければならない書物と言えよう。

本書は、2018年に亡くなった、黒人神学の創始者、ジェイムズ・コーンの遺著、神学的自叙伝である。表題は、『誰にも言わないと言ったけれど(言わずにはいられない)』という黒人霊歌から取られている。表題通り、コーンはこれまであまり書かなかったことも、本書では赤裸々に吐露している。白人や黒人の先輩たちから受けた無理解や見下しについて実名を挙げて語る。同時に無名の自分を認め、支えてくれた人々についても感謝を込めて語る。死を目前にしてすべてを言っておきたかったのだろう。

クライマックスは、第6章「足が動き出し、物語が始まる――十字架とリンチの木」である。コーンの主著とも言える『十字架とリンチの木』(邦訳:日本キリスト教団出版局刊)において、彼は黒人たちがリンチを受け、ポプラの木に吊り下げられた姿とキリストの十字架を重ね合わせた。

さらにこの章において、より普遍的な視野を持ち、自分の神学は、黒人にとどまらず、国境目前で足止めされた移民、ビザを持たない労働者たち、LGBTQの人々、虐待されている者、周縁に置かれた者、忘れ去られた者など、人間であることを守ろうとしているすべての人々のためにあるのだと告げる。

最後の第7章「歌が始まり、声が響き渡る――ボールドウィンから学ぶ」は、コーンのジェイムズ・ボールドウィンに対する感謝と愛情の告白のようだ。コーンは、前々から、キング牧師だけではなく、同時にマルコムXから学ばなければならないと語ってきたが、そこにボールドウィンを加える。「ボールドウィンは、マーティン・ルーサー・キングとマルコムXに並んで、私の知的な三位一体を形成することとなった。……ボールドウィンは、その途方もない人間愛をマーティン・キングと共有しており、黒人であることを愛するがゆえの怒りをマルコムXと共有している。……マーティンのように愛について説教できる者はいなかったし、マルコムのように黒人について語れる者もいなかった。そしてあのような雄弁さで愛と黒人性について書ける者は、ボールドウィンをおいて他にいなかった」(239~240頁)。

榎本空さんの訳もすばらしい。コーンの歯切れのよい、歌うような声が聞こえてくるようだ。

「礼拝と音楽」186号 41頁「読書案内」(2020年夏、日本キリスト教団出版局)より転載

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