「ミセス・クルナス vs ジョージ・W・ブッシュ」 2022年 ドイツ・フランス
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第95回
「ミセス・クルナス vs ジョージ・W・ブッシュ」
2022年 ドイツ・フランス 119分
〈監督〉アンドレアス・ドレーゼン
〈原題〉Rabiye Kurnaz gegen George W. Bush
グアンタナモ収容所(略称)。それは、米国同時多発テロ発生後の2002年1月、当時のブッシュ大統領によって、キューバのグアンタナモ米軍基地に開設された悪名高き収容所。テロに関与しているか、あるいは何らかの情報を持っていると疑われた人たちが強制連行または逮捕され、法の適正なプロセスを経ることなく、ここに収容され、監禁され、拷問を受けてきた。ピーク時の2003年には、約680人が収容されていたと言われる。これまでにも、その悲惨な状況を描いた映画『モーリタニアン黒塗りの記録』(21)などが公開されてきた。
今回の映画は、ドイツのブレーメンに住むトルコ人ラビエ・クルナスが、あらぬ嫌疑をかけられ、グアンタナモ収容所に収監されてしまった長男ムラートを取り戻すために奔走する話。実話をもとにしている。
電話帳で見つけた人権派弁護士ベルンハルトの協力のもと、ラビエは母親の立場から息子の無実と救出を、さまざまな機関や人々に訴えかけていく。アメリカの連邦最高裁判所に、ブッシュ大統領を相手に訴訟も起こす。ラビエ側が勝訴するのだが、アメリカ政府は動いてくれない。
ドイツで政権が交代し、メルケル首相になった後、拘束から5年近く経った2006年8月24日に、ムラートはようやく解放された。
映画では収容所内の様子は映されない。母親役をドイツで国民的コメディアンのメルテム・カプタンがユーモラスに演じることで、逆に問題から目を背けることなく、経緯を追っていくことができるようになっている。「愛は忍耐強い」(コリント一13・4)という言葉を思い起こす。