1. HOME
  2. ブログ
  3. 松本敏之著『神の壮大な計画 創世記37~50章による説教』

松本敏之著『神の壮大な計画 創世記37~50章による説教』

2019年 キリスト新聞社

<著者の良き賜物が遺憾なく発揮された説教集>

  評者:荒瀬牧彦

 病院の待合室のようなところで、ばったり出くわした知人と会話をして過ごさねばならないとしたら? もしそれが噂話や悪口や暗い話ばかりする人だったら憂鬱ですが、この本の著者のような人と遭遇できたら幸せです。温厚な笑顔で楽しい話を次々聞かせてくれるでしょう。物事や人間のネガティブな側面からも良いものや笑えることを発見し、明るい話題として前向きに語り、聴く人の心を暖めるという賜物が彼にはあるのです。某信仰誌の川柳欄の常連であり、また、奉職する教会の機関紙には必ず映画評論を設けてしまう程の映画通である著者は、他の人が見過ごすところにも重要なテーマや光るものを見出し、それを信仰や人生のメッセージに昇華して、わかりやすく語ってくれる人です。
説教においても、いや説教においてこそ、著者の良き賜物が遺憾なく発揮されています。『神の美しい世界』に始まる創世記説教集を私も愛読してきましたが、ヨセフ物語に取り組む本巻において、豊かな語りの魅力がいよいよ溢れ出ていると感じます。礼拝において生で聴くのが一番でしょうが、読む説教としても、また聖書研究のテキストとしても、旧約聖書から「福音」のメッセージを届けてくれます。
特徴をいくつか述べると、第一は、神の臨在と介入を、ヨセフ物語の大筋にだけでなく細部においても見いだし、それを感動と感謝をもって語っているということ。ヨセフ物語の「摂理」という中心主題を、教条的に押し付けるのでなく、神の深い愛への驚きをもって活写してくれるので、読む側も自分のうちにある神の素晴らしい計画に自然と気づかされるのです。
第二に、ヨセフ物語中の細かいところまで、新約聖書に一つ一つ適切に結び付けていること。例えば獄中のヨセフが給仕長に「わたしのことを思い出してください」と頼んだ言葉から、「最も小さい者」(マタイ25:40)、また、十字架上の犯罪者の「わたしを思い出してください」(ルカ23:42)が引用されます。予型的な読みを通して、読者は「創世記を通してキリストを知る」ことができます。
第三に、摂理の信仰が、運命論としてでなく、神の計画に応える人間の能動的行為や責任に展開されること。右の投獄の場面から、難民申請が認められず収監された人の在留特別許可のために自分の教会が動いた経験が語られ、また、ヨセフの食糧備蓄計画から現代の食糧危機や貧困の問題が語られるなど、ヨセフ物語の中にある人間の苦境や痛みは、現代を生きる我々の課題なのだと教えられます。
第四に、著者のエキュメニカルな神学が、聖書の読みに反映されていること。例えば、十二部族にエジプト女性の子であるマナセとエフライムが含まれていることを「聖書の広がり」とし、「異なった人たち、他宗教の人たちとも共に生きていく」示唆に導かれます。広がりという点では、異邦人は「イスラエルの救いのお相伴に与っているようなもの」といった新鮮な表現も見られます。
この本を読む人は、「神の計画は人間の小さな考えをはるかに超えて壮大なのだ!」という喜びに導かれるでしょう。聖書をまだ読んだことのない人にも手渡したい一冊です。

(あらせまきひこ=日本聖書神学校教授・カンバーランド長老キリスト教会あさひ教会協力牧師)
(「本のひろば」2020年4月号)

関連記事