「パリよ、永遠に」2014年 フランス、ドイツ
世界の映画 映画の世界
第15回
「パリよ、永遠に」
2014年、フランス、ドイツ。83分。
<監督>フォルカー・シュレンドルフ
1944年8月、パリはナチス・ドイツ軍占領下にあった。連合軍の侵攻が目前に迫る中、ドイツ軍はパリ全体を破壊すべくノートルダム大聖堂、ルーヴル美術館、エッフェル塔など要所要所に爆弾を仕掛け、爆破命令を待つばかりとなっている。そうした時、総司令官コルティッツのもとへ秘密の道を通って、スウェーデン総領事ノルドリンクがやってきた。この作戦をやめさせる秘密交渉のためである。
「軍人として黙って命令に従うだけだ」と主張するコルティッツに対して、ノルドリンクは「それが異常な命令であってもか」と迫る。
部屋には、「イサク奉献」のデッサン画があった。神から「独り子イサクをささげなさい」と命じられたアブラハムが黙々とそれに従う物語である(創世記22章)。果たして神が「自分の子どもをささげよ」などと命じることがあるのか。これは聖書の中でも最も解釈困難な物語である。
ノルドリンクは、ヒトラーの異常な命令に従うコルティッツが神の異常な命令に黙って従うアブラハムのようだと語る。コルティッツの気持ちは次第に揺れていくが、実は彼には命令に従わざるを得ない弱みがあった。「親族連座法」により、彼が命令に従わなければ、彼の妻や子どもたちが処刑されることになっていたのである。彼はノルドリンクに「君ならどうする?」と迫る。ノルドリンクは、一瞬言葉を失ってしまう。
ここで「イサク奉献」の物語は新たな意味を持って迫ってくる。この時コルティッツは、まさに神から「自分の子どもをささげよ」と命じられたということができるのではないか。この映画全体が、解釈困難な「イサク奉献」物語の優れた例示となっていると言えよう。