ブラジルの教会 1996年10月
ブラジルで牧師をしていて、いつも気になることは、カトリックとプロテスタントの「仲の悪さ」である。日本のようにカトリックとプロテスタントの合計人口が1%にも満たない国では、クリスチャンというだけで何らかの親近感があるが、ブラジルのようにほとんどの人がカトリック、プロテスタントのいずれかである国においては、その違いばかりが強調されてしまう。わたし自身は、カトリックの宣教師のための語学コースでポルトガル語の研修をしたことや、解放の神学に少なからず関心があることなどからカトリックに対して親近感をもっているので、そのはざまでジレンマに立たされる。
ブラジルのカトリックは、民間信仰や奴隷たちがアフリカから運んで来た宗教との混淆が強く、ブラジル生まれの聖人伝説も数え切れない。それぞれの町や家庭の守護聖人の尊ばれ方は、欧米から来たカトリックの宣教師たちも戸惑う程である。プロテスタント教会の「聖書のみ、イエス・キリストのみ」という伝道姿勢は、そうしたカトリックの体質に対する批判と表裏一体になっている。プロテスタントは自分たちのことをしばしばクレンチ(信者)と呼ぶが、この言葉には「自分たちはカトリックではなく、本当のクリスチャン」という響きがある。それが彼らのアイデンティティーでもある。
ブラジル人のほとんどは、特に教会へ行かない人であっても通過儀礼としてカトリック教会の幼児洗礼を受けているけれども、プロテスタント教会では、入会の際、ほとんどの場合再洗礼を授けている。
カトリックとプロテスタントの人口比率は、統計によってかなり差があるが、かとりっくが80~90%、プロテスタントが10~20%というところであろう。ただしプロテスタントの大半はいわゆるペンテコステ派教会の会員で、プロテスタント全体の77%を占める。また福音派の教会やWCCに加盟する伝統的な教会においても、ペンテコステ派教会の影響を大きく受けており、礼拝は次第にカリスマティックになってきている。手拍子をとり体を動かしながら歌う激しい賛美歌と、手を挙げて目をつぶって歌う陶酔的な賛美歌を交互に歌いながら、気持ちを高揚させて行く。こうした礼拝はブラジル人の気質にあうのであろう。彼らにとって礼拝は、御言葉をじっくり味わう時であるよりも、抑圧された自己を解放してくれる時である。
しかしこうした複雑なキリスト教界の中にあっても、エキュメニカルな活動は幾つかの組織を通して地道に進められている。中でもCONIC(Conselho Nacional de Igrejas Cristas、コニッキ)は注目すべき協議会である。これは日本のNCCに近いものであるが、聖公会、メソジスト教会、ルーテル教会、改革派教会、合同長老教会(少数派)の5つのプロテスタント教会に加えて、ローマ・カトリック教会もシリア・オーソドックス教会も正式に加わっていることが大きな特徴であろう。毎年ペンテコステ直前の「キリスト者一致のための祈祷週」には、CONICが一週間を貫く入念なテキストを作成し、それをもとに全国各地で毎日合同礼拝がまもられている。また1995年にCONICとカトリックのCNBB(ブラジル全国司教会議)の協力により、初めてエキュメニカル・バイブルが出版されたことは、画期的な出来事であった。
(松本敏之)(1996年12月、雑誌『アレテイア』のための原稿)