「あなたを抱きしめる日まで」 2013年 イギリス
第2回
「あなたを抱きしめる日まで」2013年 イギリス。98分。<監督>スティーヴン・フリアーズ
この映画が私たちの心に強く迫ってくるのは、これが実話に基づく物語だからである。
フィロミナは、若き日に未婚で子どもを産み、そのために修道院に預けられて働かされ、しかもその息子と生き別れになった過去をもつ。「あの子は今頃、どうしているのだろう。生きていれば、今日が50歳の誕生日。」
フィロミナは、失職中のジャーナリストのマーティンと共に、息子を探す旅に出かける。無情にも明らかになったことは息子がすでにこの世にいないということであった。しかし旅はそれで終わらない。息子がどう生きたかを知るために、旅は続けられる。次々と新事実が発覚し、最後に行きついたのは、旅の出発点の修道院であった。
息子の墓の前にたたずむフィロミナに、マーティンは「これを」と言って修道院の土産物コーナーで買った小さなイエス像を差し出した。小さく両手を広げた「イエス」は、「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう」(マタイ11・28)と語りかけているようだ。同時にフィロミナは、そこに息子の姿を重ねあわせ、「お母さん、やっと会えたね」という声を聞いたかもしれない。そうであれば、(ここには登場しないが)カトリック教会の「聖母子像」も50年前の母と子の姿と重なってくる。「息子」は成長し、そして死んだけれども、今、彼女を受け入れ、抱きしめようとしているのである。
フィロミナが修道院長に、「私はあなたのことを赦します」と告げたことが印象的であった。修道院長は憮然とした表情でその言葉を聞いているが、この言葉の向こうには、イエスが立っているのである。
(「からしだね」2015年7月号)