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『次世代への提言! 神学生交流プログラム講演記録集』日本クリスチャン・アカデミー関東活動センター編

〈なんと密度の濃い、意義深い講演集だろう〉

『次世代への提言! 神学生交流プログラム講演記録集』
(日本クリスチャン・アカデミー関東活動センター【編】)
評者=松本 敏之

なんと密度の濃い、そして意義深い講演集だろう。
これは、日本クリスチャン・アカデミーが、2009年から10年間にわたって行ってきた「神学生交流プログラム」の主題講演を抜き出して1冊に編集したものである。このプログラムは、2009年から毎年3月に2泊3日の日程で、教派・教団の枠を越えて各神学校から推薦されてきた神学生たち(原則各2名)を対象として行われてきたものであり、プログラムの仕掛け人は戒能信生さんである。戒能さんは、1960年代に行われていた各神学校の交流プログラム、インターセミナリー・カンファレンス(通称「インセミ」)の現代版を実施したいと願い、そして「これこそがクリスチャン・アカデミーならではの行事だ」ということで熱心に推進してこられた。また関田寛雄さんは、このプログラムに「校長」としてかかわってこられたが、「はじめに」において、これから牧師・神父になろうとする人に向かって話してこられたことを5つのポイントでまとめておられる。これは現役の牧師・神父たちにとっても、慰めと励ましに満ちた言葉である。
10年間の講師の顔触れは多様でありつつ、同時に一本筋が通ったところがある。講師と主な働き・分野は、年代順に以下のとおりである。荒井献(新約学)、小林哲夫(茶道裏千家)、本田哲郎(釜ヶ崎で働く司祭、新約学)、関田寛雄(実践神学)、杉野榮(京都キリスト教史跡研究)、青野太潮(新約学)、森一弘(カトリック司教)、並木浩一(旧約学)、石田学(牧会学・宣教学)、神田健次(エキュメニズム)、戒能信生(日本キリスト教史)。いずれも日本のキリスト教界を代表するような方々の講演であり、「特定の神学校の教育だけでは得られない神学的精髄のオンパレード」(関田)である。
多くの講師が、実行委員会の依頼に応じ、第一講演で「個人史、特に信仰的遍歴」について、第二講演で「研究課題として来られた神学的テーマ」について述べている。
それぞれの第一講演は、他で述べられたことがない内容も多く、貴重な資料である。その思想形成のプロセスを知ることとなり、わくわくさせられた。人生には、かけがえのない出会いというものがある。一見偶然のように見える出会いが、その後の歩みを決定づける。これらの講師たちにも、そうした出会いがあったことを思い、感慨深い。
各講師の第二講演題は以下の通りである。「福音宣教の功罪―ローマ植民市フィリピにおけるパウロの宣教活動を手掛かりとして」(荒井)、「イエスの十字架の意味―現代の私たちに問いかけるもの」(青野)、「キリスト教と教会の原像―キリストがもたらした価値観・世界観の普遍性と担い手としての教会と福音書」(森)、「いま、旧約聖書の世界から考える」(並木)、「日本で福音を宣べ伝えるということ―わたしの牧者論」(石田)、「エキュメニカル運動の軌跡と神学的課題」(神田)、「宣教論的視点から見る日本プロテスタント史」(戒能)。
神学校の授業のように、時々脱線するが、脱線の中で本音が述べられて興味深い。一般信徒の方々にもわかりやすい講演でありつつ、レベルは高い。もちろん牧師たちにも有益である。ぜひ多くの人に手にしていただきたい。
(「本のひろば」2020年11月号掲載)

「次世代への提言”! 新教出版社」

 

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