『洗礼を受けるあなたに-キリスト教について知ってほしいこと』 著者:越川弘英、増田琴、小友聡、柳下明子、山本光一
『洗礼を受けるあなたに-キリスト教について知ってほしいこと』
著者:越川弘英、増田琴、小友聡、柳下明子、山本光一
(日本キリスト教団出版局 2020年)
評者:松本 敏之(鹿児島加治屋町教会牧師)
この書物、これから洗礼を受けようとしている人たちを対象に書かれていますが、「すでに洗礼を受けたあなた」にも、ぜひ読んでいただきたい本です。
教会生活の長い人が「今さら聞けない」と思っていることを、新しい人が牧師に尋ねてくれて、その答えに「なるほど、そういうことか」という経験をすることがよくあるのではないでしょうか。この本を読むことは、何かそういう経験に通じるものがあります。副題が示すように、「キリスト教について知って」おきたい大事なことが凝縮して書かれています。
5人の執筆者のうち4人は、私の信頼する、親しい友人ですが、平易な言葉で大事なことが書かれており、「さすが!」とうれしく思いました。
越川弘英さんは、まず「洗礼を受けるということ」という序文で、洗礼とは「新たに生まれること」であり、「主イエス・キリストと一体となること」であり、「教会の一員となること」であると述べ、「洗礼において、より大きな責任を負うのは、洗礼を受ける当事者よりも、洗礼を授ける教会の側である」と述べます。はっとさせられました。
越川さんは、続く第1部「人間と宗教」において、広い地平から「人間とは何か」「宗教とは何か」と問い、その問いにキリスト教がどう向き合っているかを述べます。
増田琴さんは、第2部「キリスト教の信仰」において、キリスト教の教えを、「神」「イエス・キリスト」「聖霊」という「三位一体」の枠組みに沿って、わかりやすく解説します。
小友聡さんは、第3部「聖書」において、「聖書はどのような書か」「聖書に何が書いてあるのか」「聖書をどう読むか」について語ります。聖書全巻の覚え歌も出てきます。
柳下明子さんは、第4部「教会」において、まず「教会とはどのようなところか」について述べ、教会の2千年の歴史を振り返り、さまざまな教派について説明します。古代ローマ帝国の「西半分」「東半分」の話や、「ニカイア・コンスタンティノポリス信条」のことなど、私自身、よい勉強になりました。礼拝や教会暦についてもよい学びになります。
山本光一さんの第5部「洗礼を受けてから」は、第4部までの「学び」的な内容よりも、「証し」と「奨め」的な内容が中心になっています。「洗礼を受けても生活は変わらないかもしれませんが、人生は変わると思います」と語り始めます。つらい経験をした方の「ああ神さま、なんちゅうことをしてくれるのや」という関西弁に思わず「にやっ」としつつ、「その気持ち、よくわかるなあ」と思いました。「クリスチャンとなっても苦労はするのです。しかし、その苦労の時に神と対話するのがクリスチャンです」と語ります。
5人の執筆者が、それぞれ自分の受洗経験について短いコラムを書いていますが、それがまたとても興味深いです。さまざまな「出会い方」「入り方」があるのだなと思いました。
もちろん一人で読んでもよいですが、この本をテキストにして、教会で学びの会をするのもよいでしょう。なかなか受洗の決心のつかなかった方が、「この本を読んで、洗礼を受けない理由が何もなくなりました」と言われて、昨年のクリスマスに鹿児島加治屋町教会で洗礼を受けられました。「すばらしい」と思いました。
「センター通り」176号(2021年3月10日発行) シリーズ この1冊