「死の谷間」 2015年 アイスランド他
世界の映画 映画の世界
第55回
「死の谷間」
2015年 アイスランド・スイス・アメリカ・ニュージーランド 98分
〈監督〉クレイグ・ゾベル
原題:Z for Zachariah
「この(神の)憐れみによって、高い所からあけぼのの光が我らを訪れ、暗闇と死の陰に座している者たちを照らし、我らの歩みを平和の道に導く」(「ザカリアの預言」より、ルカ1:78~79)
世界中が核汚染される中、不思議に汚染されずに守られていた谷間があった。そこにはアンという女性がたった一人で犬と一緒に住んでいた。村人たちは生存者がいないか探しに行ったが、誰も帰ってこなかったのだ。彼女は牧師であった父親が建てた教会でオルガンを弾いたり、DVDで人の声を聴いたりして何とか孤独に耐えていた。ある日、防護服を身にまとった男ジョンが現れる。彼はこれまで地下1.6キロの核シェルターにいたが、耐え切れず放射線線量計を手に、安全な場所を探して旅をしていたのである。
彼らは共同生活を始めることになる。年は離れているが、次第に親しくなっていった。ところがそこへもう一人若い魅力的な男性ケイレブが現れ、微妙な三角関係となっていく。
さてこの映画は聖書の歴史観に基づくものとは言えないが、聖書的なモチーフが凝った形で用いられている。映画の原題は「ザカリアのZ」(Z for Zachariah)。謎のような言葉である。ヒントは、ジョンがアンの家で手にした『ABCバイブル・ブック』という絵本にある。最初のページに、アダムとエバの絵が出ていて、「アダムのA」と書かれている。このAが最初の人間を指し示すとすれば、Zは最後の人間を示しているのだろう。
ザカリアとは洗礼者ヨハネの父であり、ヨハネが生まれたときザカリアは冒頭に掲げた預言をした。「死の谷間」という邦題は、この「ザカリアの預言」に基づいている。