空の鳥

松本敏之流川柳⑱

「よく見なさい。空の鳥かな烏かな」
(「信徒の友」2016年6月号掲載)

マタイによる福音書の「空の鳥をよく見なさい」(マタイ6:26)はよく知られた聖句です。ところがルカによる福音書の並行箇所では、「烏のことを考えてみなさい」(ルカ12:24)となっています。一瞬、(文字通り)目を疑います。「鳥」が「烏」になってる!線が一本足りない!もう一度、目を凝らして、よく見ますが、やはり「烏」です。老眼のせいではありません。

ちなみに新約聖書学者の荒井献さんによると、「ルカ版の〈烏〉のほうが、マタイ版の〈鳥〉よりも古い(イエス自身の言葉に近い)」とのことです。その根拠は、「旧約聖書において(例外として)烏は預言者エリヤに食料を運んで彼を養った鳥ということで積極的に評価されている場合もあるが(列王記 上 17・4以下)、圧倒的に多くの場合汚れた鳥の一つに数えられている(レビ記11・13~15、申命記14・12~14、イザヤ書34・11)。それだけに、人間に対する神の配慮の比喩的比較表現が、口頭で伝えられていく際に、「鳥」という一般的表現から「烏」という個別的な表現に変わっていくよりも、逆に「烏」から「鳥」に変わるほうが自然であろう」ということでした。
(2012年1月29日、経堂緑岡教会、特別伝道礼拝説教より)

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