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松本敏之著『神の民の解放 出エジプト記1~18章による説教』後宮敬爾評

松本敏之著『神の民の解放 出エジプト記1~18章による説教』
(キリスト新聞社、2023年) 

混迷の時代の出エジプト記ガイド
〈評者〉後宮敬爾

 2023年10月以降、メディアは連日、ガザの病院で死を待つほかない状況に追い込まれている赤ちゃんの映像を映し出しています。この現実を目の当たりにするとき、出エジプト記を読むことを躊躇する人は少なくないでしょう。
 出エジプト記の前半のもっとも大きな出来事は、エジプトからのイスラエル民族の解放です。次々と起こる災いにも頑迷に解放を拒否し続けたファラオが、最後に認めることになるのは「初子の死」でした。イスラエルが解放されることは大事なことだと頭では理解しつつも、そのために犠牲になった無垢な子どもたちの死について、そしてその家族の悲しみについて、どう理解すべきなのかという問いが脳裏に絡みついてくるのです。
 そのような人に、お勧めしたいのが本書です。本書の特徴は、読者に「まるでドキュメンタリードラマを見ているかのような」読書感を与える説教集だというところです。説教者は、今の時代を生きて、その現実の中で困り、悩み、問い続けながら、出エジプト記と格闘しているのです。その緊迫感と臨場感を生々しく感じながら、出エジプト記が語られていきます。

 著者が牧会する鹿児島加治屋町教会で2020年1月から2022年6月に語られた連続講解説教を土台とした説教集で、本書には出エジプト記一章から18章までを範囲として23の説教がおさめられています。
 ちょうどこの時期は、世界中の教会が新型コロナ・ウィルスの脅威にさらされ、教会にも緊急対応が内外から求められた時でした。その求めは、礼拝を問い、説教を問い、教会共同体の存在を問うものでした。
 著者は、その緊急事態の中に身を置きながら出エジプト記を読み、黙想し、講解しています。ルワンダ大虐殺、ミャンマーの軍事クーデター、そしてウクライナ戦争などの社会矛盾を見据え、ボンヘッファーやM・L・キング牧師の言葉を用い、さらに彼が人生の中で与えられたブラジルでの移民の人々からの知恵、ジェームズ・コーンからの知恵、阿佐ヶ谷教会の「あの時の祈祷会」の話から学んだ知恵などを駆使して、講解作業を継続したのです。
 混迷の今を生きる説教者である著者は、同じように混乱の時代に召しを受けたモーセの戸惑いに自らを重ねています。その上で、自分の持てる様々な経験と知識と知恵を用いて、「信頼すべき神の言葉」として出エジプト記を読もうと、読者に語りかける説教集となっています。
 混迷の時代において、出エジプト記は何を語るのか、それをどう読めばよいのか、本書は良いガイドになるに違いありません。
(うしろく・よしや=日本基督教団霊南坂教会牧師)
「本のひろば」2024年2月号掲載

神の民の解放

 

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