「歌声にのった少年」2015年 パレスチナ
世界の映画 映画の世界
第29回
「歌声にのった少年」
2015年 パレスチナ 98分
<監督>ハニ・アブ・アサド
現代パレスチナの問題を、さまざまな角度から世界に訴えかけ続けるハニ・アブ・アサド監督。〈パレスチナ・ナウ〉(2005)では、自爆攻撃に向かうパレスチナ人青年の苦悩と葛藤を描き、〈オマールの壁〉(2013)では、イスラエル軍に捕らえられ、スパイになることを強いられたパレスチナ人青年のジレンマと運命を描いた。今回の<歌声にのった少年>では、厳しさと絶望感は後退し、夢と希望が前面に出てくる。これは事実に基づく物語である。
天性の美声を持つムハンマド少年は、両親と姉ヌールと共にパレスチナのガザ地区で暮らす。ガザ地区はシナイ半島東地中海に面する帯状の地域で、イスラエルとエジプトにより厳しく封鎖されている。住民200万人のうち3分の2は、第一次中東戦争によって発生したパレスチナ難民およびその子孫であるという。
ムハンマドとヌールは子どもの頃から友人たちとバンドを組み、歌ってはお金を稼ぐ。ヌールは、弟に向かって「スターになって世界を変えるのよ」と励まし続けるが、彼女自身は病に倒れてしまう。
さまざまな困難、失敗を乗り越え、青年ムハンマドはアラブ全域で放映されている勝ち抜き歌謡番組「アラブ・スター」に出ることを決意する。エジプトで行われるオーディションに出演するため、偽パスポートを入手し、会場にチケットなしで忍び込む。彼の歌を聴いた人は、その実力を認めて協力していくのである。レバノンでの本番でも、どんどん勝ち抜いていく。しかしあまりの期待の大きさに、ついにパニック発作を起こしてしまった。「歌で訴えたいんだ。故郷を失った僕たち難民のことを。」果たしてこのムハンマドの願いはかなうのだろうか。