「希望の灯り」 2018年 ドイツ
世界の映画 映画の世界 第62回
「希望の灯り」
2018年 ドイツ125分
〈監督〉トーマス・ステューバー
原題:In den Gangen
そこはドレスデン郊外の巨大なスーパーマーケット。閉店と共に、もう一つの顔が現れる。職員たちが「通路にて」(原題)交わす会話も気兼ねのないものになり、倉庫と店内をフォークリフトが忙しく行き交う。
在庫管理担当の仕事は掃除と補充であるが、その責任者ブルーノのもとに、新人クリスティアンが連れてこられた。シャツの襟元や袖口から気味の悪いタトゥーが見え、いかにも「ワケアリ」青年のようだ。しかし懸命に未来を拓こうとしているクリスティアンに対し、ブルーノは父親のように接し、一人前に育ててやろうとする。
「新人さん、気を付けて」と、からかい半分に声をかけてきた年上の女性マリオンに、クリスティアンは一目ぼれする。彼女のほうもまんざらでもなさそうだったが、ブルーノから「人妻だ」と聞かされショックを受ける。しかし彼女もまた「ワケアリ」であった。ブルーノは「彼女に優しくしてやれ」と告げる。
ある日ブルーノはクリスティアンに昔の話を始めた。その場所は、旧東ドイツの時代には、トラック運送人民公社であり、今の同僚たちはかつて長距離トラックの運転手だったという。ドイツ統一後、そこは巨大資本のスーパーに買収されたのだ。「アウトバーンからドレスデンの工場の煙が見えると『帰ってきた』とほっとしたもんだ」と昔を懐かしむ。
映画は、東ドイツの時代を賛美するわけではないが、統合されて、みんなが幸せになったわけでもないことを静かに告げる。冗談を言い合いながら、慎ましく、いたわり合い、支え合って生きる素朴な人々を描く。観終わった後、「私も頑張って生きよう」と励まされる気がした。