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「対 峙」 2021年 アメリカ

世界の映画 映画の世界 
第89回
「対 峙」
2021年 アメリカ 111分
〈監督〉フラン・クランツ
〈原題〉Mass

 アメリカのある高校で銃乱射事件が起きた。10人の高校生が撃たれて死に、加害者の生徒も校内で自らの命を絶った。そんな衝撃的な事件から6年の歳月が流れたが、息子エヴァンを殺された夫妻は前に進むために、セラピストの勧めにより、加害者ヘイデンの両親と会う決心をする。場所は聖公会の教会の一室。
 最初と最後にセラピストと教会職員の女性と青年が登場するが、約9割の時間は被害者の両親と加害者の両親の4人だけの会話である。
 緊張した空気の中で社交辞令的な挨拶から始まるが、話は次第に核心に迫って来る。
「あなたの息子のことを聞きたい」「なぜ?」「私の息子を殺したからよ」
 「悔いる気持ちは?」「すべてを悔やんでいる。変えられるなら変えたい、すべてを」「あなたが罰を受ける姿を見たい」
 加害者の両親もこれまで十分苦しんできた。「地元の教会は弔いを拒み、葬儀は密かに行われた。神の慈愛の前に人は物語を語り、私たちは隠す」
 本音をぶつけあい、激しい言葉のやり取りをした末、4人は疲れ果て、向き直って輪を作る。エヴァンの母親は言葉を絞り出すように言った。「あなた方を赦せば息子を失うと思っていた。でも今は言えます。お二人を赦します。ヘイデンも赦します。」
 一方、ヘイデンの母にも、前に進むために語らなければならない言葉があった。
 遠くから聖歌隊の歌声が聞こえてくる。「主イエスにより結ぶ愛は、心も思いもひとつにする。」「共に嘆き、共に泣いて、互いの重荷を担い合おう。」「罪とうれい無いみ国の、尽きない交わり、望み待とう。」(『讃美歌21』540番)
 この賛美歌がこれほど慰めに満ちた歌だと感じたことはなかった。
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