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「否定と肯定」 2016年 イギリス、アメリカ

世界の映画 映画の世界
第46回
「否定と肯定」2016年
イギリス、アメリカ、110分
<監督>ミック・ジャクソン

1996年に実際にあった裁判の話。ユダヤ人の女性歴史学者デボラ・リップシュタットとホロコースト否定論者デイヴィッド・アーヴィングの対決。
デボラは自身の著書の中で、「本当はホロコーストなどなかった」というデイヴィッドを批判していたが、彼は「否定論者を侮辱するのか」とかみついてくる。デボラは当初「話すだけ時間の無駄」と取り合わなかったが、なんとデイヴィッドは彼女と出版社を名誉棄損で訴えてきたのだ。デボラは「歴史的事実を争うなんて!」と嘆きつつ、受けて立たざるを得なくなる。しかもイギリスの法廷で。というのは、アメリカの法廷では原告側に立証責任があるが、イギリスでは逆に被告側に立証責任があるというのだ。
ホロコーストの生存者に証言してもらえばよいように思うが、デボラの弁護団は、そうさせない方針である。なぜなら「その番号の入れ墨でいくら儲けたのだ!」などと、デイヴィッドが侮辱するのに耐えられないし、証明にはならないという。むしろデイヴィッド自身の論理などの矛盾を突くことに焦点を当てていくが、これが意外に難しい。裁判長も「『なかった』と信じている者が『なかった』と言っても、事実を歪曲したことにはならない」という。
裁判に勝利した後の記者会見で「アーヴィングに何を言いますか」という質問に対して、デボラは語る。「むしろ生存者と死者にこの言葉を伝えたい。『あなた方は記憶され、苦しみの声は届いた』と。」
この話、日本人の私たちにも決して他人ごとではない。「南京大虐殺などなかった」「関東大震災時の朝鮮人虐殺などなかった」「従軍慰安婦は、自ら志願して行った」「徴用工の問題は解決済み」とするような声はずっと続いているからだ。

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