「助産婦は神を畏れていたので」
榎本恵牧師が、8月16日の説教で、小山晃佑先生の『助産婦は神を畏れていたので』を紹介しておられました。その案内に興味をもって、説教も全部聞かせていただきました。中身もあるし、ユーモアもあるし、現代的だし、福音的だし、とてもよい説教だと思いました。私も出エジプト記の連続説教で、出エジプト記1章を扱った時には、小山先生の『助産婦は神を畏れていたので』の本に大きな示唆を受けました。
ちなみにこの本、日本語版は1988年の出版ですが、原著の出版は1979年です(“Three Mile An Hour God”)。ということは、小山先生がニューヨークのユニオン神学校に来られる少し前です。小山晃佑先生は、ユニオンでアジア人初の教授として招聘されましたが、この本も招聘検討の資料になったかもしれません。
ユニオンの教授会は、それまでジェイムズ・コーン(黒人)以外は皆白人であり、うわさでは、教授会でジェイムズ・コーンが、強く何か主張し始めると、他の白人の教授たちは黙って聞くだけで何も言えなくなったとか。そこで「〈白人対黒人〉の構図の中にいない人で、誰か優れた人はいないか」ということで、アジア人の小山先生に声がかかったという風に聞いたことがあります。真偽のほどは定かではありませんが、「さもありなん」という気もします。実際、その後の教授会では、小山先生の存在は「世界は白人と黒人だけではないよ」と認識させてくれたでしょうし、あのニコニコとユーモアたっぷりにお話される小山先生なら、きっと教授会の空気も和ませてくれたことでしょう。またある部分では、小山先生も、アメリカ社会における別のマイノリティーとしてジェイムズ・コーンに共感して発言されたことと思います。
ちなみにジェイムズ・コーン自身、遺著『誰にも言わないと言ったけれど』の中で、ユニオン神学校の同僚(教授)たちに(白人教授たちも含めて)感謝の言葉を記していることを付け加えておきます。
さて、“Three Mile An Hour God”の日本語版は、1982年に、前半だけが先行して、『時速五キロの神』として、望 月賢一郎氏の訳で出版されました。こちらは、いかにもまじめな望月先生らしくやや硬めの訳です。それに対して、後半部分である『助産婦は神を畏れて』の原みち子さんの訳は児童文学の訳をされる原さんらしい、わかりやすい、こなれた日本語です。今はどちらも入手困難なようですから、もしも原みち子さんが、ご健在なら、前半も新たに訳されて、合本で出していただけたらな、と思いました。
でもそれが無理なら、どなたか新しく、流ちょうな日本語にして合本で出してくだされば、と思いました。同信社さんの許可が得られるならば、別の出版社から出されることもありうるかもしれません。出版関係の方も、ご一考ください。
『水牛神学』、『富士山とシナイ山』、『十字架につけられた精神』(教文館)の訳は硬いです。「小山先生なら、もっとフランクな日本語を使われるのだけれど」と、ちょっと残念に思いました。思い切って「ですます調」でもよかったのでは」と思いました。(勝手なことを言って、スミマセン。書評には書きませんでしたが。)