「ミルカ」2013年 インド
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第17回
「ミルカ」
2013年、インド153分
<監督>ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ
インドで「空飛ぶシク教徒」と呼ばれた歴史的アスリート、ミルカ・シンの半生を描いた実話に基づく映画である。ミルカの頭の上には、シク教徒のシンボルである長髪をまとめた「まげ」がある。
400メートル走で世界記録をもつミルカであったが、1960年のローマ・オリンピックではトップでゴールする寸前に、突然後ろを振り返り、結局4着で終わってしまう。その背景には、彼の壮絶な厳しい生い立ちがあった。
1947年6月、それまでイギリスの領土であったパキスタンとインドは独立と共に別の道を歩むこととなる。パキスタンはイスラム教を国教とする国家に、インドは国教をもたない世俗国家になることが決まり、1951年までに約900万人のヒンドゥー教徒とシク教徒がインドへ、約600万人のイスラム教徒がパキスタンへ移住した。
その間の混乱で略奪、暴行、殺人が横行し、数十万人が犠牲になったという。ミルカの一家は両国にまたがるパンジャーブ地方のパキスタン側に住むシク教徒であったが、インド側に移り住まなかったために悲劇に巻き込まれた。
シク教とは、ヒンドゥー教とイスラム教の教えを批判的に統合し、カースト制度は否定し神は唯一とするが、輪廻や解脱は信じるなど、いわば両宗教のよいところをあわせたような宗教だそうである(映画の公式HP参照)。
幼かったミルカは命からがら難民キャンプに逃げ込み、そこからさまざまなドラマが始まっていく。ラブロマンスもあり、全く長さを感じさせない。スポーツ選手のサクセスストーリーに終わらず、歴史と宗教についても深く学ばされる貴重な映画である。