「ベルファスト」 2021年 イギリス
世界の映画 映画の世界
第82回
「ベルファスト」
2021年 イギリス
98分
〈監督〉ケネス・ブラナー
原題:Belfast
イギリスは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの〈カントリー〉によって構成されるが、ベルファストはその中の北アイルランドの首府である。
ベルファスト出身のブラナー監督は、9歳のバディに、少年時代の自分を重ね合わせ、1969年の愛する故郷を描いた。
当時のベルファストには歌があり、ダンスがあり、笑いがあった。しかしその楽しい日常は、8月15日に破壊される。バディの住む地区は住民の多数がプロテスタント教徒であったが、その中の一部の人々が、少数のカトリック教徒を追い出そうとして、家や店を襲撃したのだ。
背景としては、米国の公民権運動の影響を受け、少数者のカトリック教徒の人権を守ろうという運動が北アイルランドにも広がったことがある。それを抑え込もうとする人々との対立はエスカレートしていった。それはその後1998年の「ベルファスト合意」まで長く続くことになる。
バディの家族はプロテスタントだったが、カトリックの人たちとも仲良く暮らしていた。バディの大好きなキャサリンの家もカトリックであった。混乱の中にあっても、バディの家族は笑いを忘れず、たくましく生き抜く。
長い葛藤の末に、バディの家族は、ロンドンへ移住することになる。バディは父に尋ねた。「将来キャサリンと結婚できるかな。」「できるさ。優しくて、フェアで、お互い尊敬し合えれば、誰でも大歓迎だ。」父の付け加えた言葉がウイットに富んでいる。「待てよ。そしたら僕らも懺悔しないと。そいつは困った。」
これは監督のパーソナル(個人的)な物語でありつつ、今のウクライナの状況にも通じる普遍的な物語でもある。