「ベイビー・ブローカー」2022年 韓国
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第93回
「ベイビー・ブローカー」
2022年 韓国 130分
英題:Broker
〈監督〉是枝裕和
赤ちゃんを匿名で受け取るベイビー・ボックスのある教会付属の施設。降りしきる雨の夜、一人の若い女が赤ちゃんを置いて立ち去った。施設の中では職員のドンスとクリーニング屋のサンヒョンが待ち構えていた。彼らは赤ちゃんを盗んで横流しするベイビー・ブローカーである。「ウソン、ごめんね。必ず迎えに来るからね」というメモを見たドンスは「迎えに来る気ゼロだね」とつぶやく。ドンス自身も同じようなメモと共に捨てられた身であり、児童養護施設育ちなのだった。
施設の外では車の中から、ベイビー・ブローカーを逮捕しようと、二人の女刑事が見張っていた。サンヒョンは赤ちゃんを自宅に連れ去り、刑事はそれを追う。
赤ちゃんの母親ソヨンは、翌日、施設へ子どもを探しにやって来た。警察に通報されると困るドンスは、ソヨンに話しかけ、サンヒョンの家に連れて来る。子どもを育てられない事情をもつソヨンも加わって、養父母探しの旅が始まった。ドンスが育った施設に立ち寄った時、孤児のヘジンも旅についてきてしまった。ウソンを含めた5人は次第に心通わせる家族のようになっていく。みんないわくつきの出生事情や人生の陰をもつ人たちだ。ある夜ホテルで、ゲームのようにして真っ暗な部屋で、ソヨンがゆっくりと一人ひとりの名を呼んで、「〇〇、生まれてくれてありがとう」と言う場面がある。最後にヘジンが「ソヨンも生まれてくれてありがとう」と告げる。映画のメッセージが込められた場面である。生まれないほうがよかった生などないのだ。
二人の刑事はぴたりと彼らの後を追い、現行犯逮捕の機会をねらっていた。