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「フランス組曲」2014年 イギリス、フランス、ベルギー

世界の映画 映画の世界
第20回
「フランス組曲」
2014年、イギリス・フランス・ベルギー 107分
<監督>ソウル・ディブ

これは、奇跡の物語である。何が奇跡かと言えば、第一にこの物語が書かれた状況、第二にこの物語が日の目を見た経緯、第三にこの物語の内容、言い換えれば、この作品を生み出した著者の心である。
原作はナチス占領下のフランスで、イレーヌ・ネミロフスキーというユダヤ人によって書かれた。彼女は1942年アウシュヴィッツに送られ、1か月後に亡くなった。
イレーヌは収容所に送られる前に、トランクを娘に託した。娘は奇跡的に生き延びたが、トランクの中のノートは、母の日記だと思い、読むのがつらいのでそのままにしていた。それが小説であることに気づいたのは、イレーヌの死後60年が経過した後であった。その小説「フランス組曲」が発表されるや否や全世界でベストセラーとなる。
小説の舞台は、ドイツに占拠されたフランスの田舎町。戦地に行った夫を待つリュシルと、彼女の家を住まいとしてあてがわれたドイツ軍中尉ブルーノとの禁断のラブストーリーである。
ブルーノはもともと作曲家であり、他の粗野な兵士たちとは違う、優しい心を持っていた。リュシルは彼の弾くピアノに心を奪われ、それがブルーノの曲だと知ってから心を寄せるようになる。
作者イレーヌは、フランス人を支配し、しかもユダヤ人たちを迫害するドイツ人の中にも美しい魂をもった人間が存在することを描く。私は、作者が置かれていた状況を考えれば、これこそが最も大きな奇跡であるように思えた。
監督は語る。「この本は単なる小説ではありません。ファシズムに対する芸術の勝利を象徴しています。」映画は、原作者の思いを無駄にしてはいけないという人々の思いが結実したものと言えよう。

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