「ビール・ストリートの恋人たち」 2018年 アメリカ
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第59回
「ビール・ストリートの恋人たち」
2018年 アメリカ 119分
〈監督〉バリー・ジェンキンス
原題:If Beale Street Could Talk
1970年代のニューヨーク・ハーレムを舞台にしたピュアなラブ・ストーリーである。ただし単純なハッピーエンドではないし、絶望的な悲劇でもない。
22歳の木工職人ファニーと、香水売り場で働く19歳のティッシュは、家族ぐるみの幼なじみ。共に育つ間に、自然に愛が芽生えていった。二人は結婚生活を夢見て、新居を探し求めるが、なかなか黒人に部屋を貸してくれる人はいない。ファニーはつぶやく。「問題はこの国は黒人嫌いだということさ。毛嫌いしている。」しかし二人の心は一つなので、幸せであった。
その二人を絶望のどん底へ突き落す事件が起きる。ティッシュを守ろうとしたファニーが、白人警官の逆恨みを買い、レイプ事件の犯人に仕立て上げられてしまうのだ。
彼よりも前に冤罪で投獄され、ようやく出所した友人ダニエルは、こう語った。「何もやっちゃいない。サツにはめられたのだ。奴らは何だってできる。黒人を思い通りにハメられる。マルコムXや活動家の主張がよく分かった。白人ってのは、ありゃ悪魔の化身だ。俺は地獄を見た。」
ファニーが拘束された後、ティッシュの妊娠がわかった。なんとかファニーを救おうと家族は奔走するが、黒人のおかれた現実は厳しい。
アメリカ黒人文学を代表する作家ジェイムズ・ボールドウィンの小説が原作である。差別社会に対する静かな怒りがこみ上げるが、私たちも「他山の石」としなければならないだろう。
「神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます」(コリント一10・12~13)。