「バルーン 奇蹟の脱出飛行」 2018年 ドイツ
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第72回
「バルーン 奇蹟の脱出飛行」
2018年 ドイツ 125分
〈監督〉ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ
原題:Ballon
全くすごいことをやってのけた人たちがいたものだ。これは、1979年に熱気球で東ドイツから西ドイツに逃亡した2家族の実話をもとにした映画である。
1976年から88年までに東ドイツから西側への逃亡に失敗した人は3万8千人。少なくとも462人が国境で命を落とし、生き延びた人々も国家から裏切り者の烙印を押された。
電気技師ペーターの家族と、車の運転手ギュンターの家族は西ドイツとの国境に近いペスネック市に住んでいる。共に2年がかりで気球を準備し、風向きのよい日を待っていた。絶好の日が訪れたが、全員が乗るのは無理だということで、ペーターの家族だけが実施することになった。しかし国境直前で不時着してしまい、気球の残骸と共に、妻の常備薬も見つかってしまう。ペーターたちは元の生活に戻るが、シュタージ(国家保安省)の捜査が進む中、彼はギュンターを説得して、限られた時間で、より大きな気球を作り、2家族で共に脱出する計画を立て、実行に移していく。
隠し事を悟った息子が「嘘はいけないよね」と言った時、ペーターは「この国では本当のことを言ってはいけない」と言うが、当然子どもには理解できない。母親は「隠し事はあなたを守るためなの。信頼して」と言って、「信頼関係がなければ言えない冗談」を話してやる。最後にそれを紹介したい。
「老婆が警官に尋ねました。『ゲンソクっていうお店はどこにありますか?』警官が『そんな店はないよ』と答えると、彼女は言いました。『ホーネッカー書記長様が、「原則では、あらゆるものが買える」と言われましたので。』」