「ジョジョ・ラビット」 2019年 アメリカ
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第71回
「ジョジョ・ラビット」
2019年 アメリカ 109分
〈監督〉タイカ・ワイティ
原題:Jojo Rabbit
笑いあり、皮肉あり、緊張あり、希望あり。不思議な魅力に満ちた反戦映画である。
ナチス政権末期のドイツ、10歳の少年ジョジョは、大好きなママと二人暮らし。強いものにあこがれ、戦争を美化し、ドイツ少年団の週末キャンプに参加するが、心の優しい子どもである。ウサギみたいに弱虫だということで「ジョジョ・ラビット」とからかわれる。心の中には、空想のヒトラーが住んでいて、そんな彼を強がらせ、ユダヤ人嫌いにさせようとしている。
ジョジョの母は、密かに反ナチ運動に加わり、家の屋根裏には、ユダヤ人の少女エルサをかくまっている。
「愛は最強の力よ」というママに、ジョジョは「愛なんて見てもわからない。一番強いのはミサイル……」と反論するが、ママはさらに「見えなくてもわかるわ。感じるの。痛いの。お腹の中で蝶が飛び回る感じ」と言う。「あなたはまだ10歳なのよ。戦争や政治の話より、木に登ったり、落っこちたりしなきゃ」、「命は神様からの贈り物。踊って生きる喜びを伝えなきゃ」
ある日、ジョジョは屋根裏のエルサに気づいてしまう。ユダヤ人を恐ろしい生き物だと信じ込んでいたジョジョであるが、やり取りをしているうちに、年上のエルサに恋をするようになる。お腹の中で蝶が舞っている。
ジョジョは少しずつ自分の考えをただし、心の中のヒトラーと決別する。やがて連合軍がやってくる。エルサはどうなるだろうか。
最後にリルケの詩が引用される。「すべてを経験せよ。美も恐怖も。生き続けよ。絶望がすべてではない」映画の主題のようだ。