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「あなた、その川を渡らないで」 2014年 韓国

世界の映画 映画の世界
第28回

「あなた、その川を渡らないで」
2014年 韓国 86分
<監督>チン・モヨン

素朴な老夫婦の日常を描いた、実に地味なドキュメンタリーでありながら、不思議なおとぎ話のような魅力のある映画である。

夫98歳、妻89歳、結婚76年目。12人の子どもをもうけたが、6人は小さい時に死なせてしまった。貧しかった。無事に育った6人は親元を離れて過ごし、家族と共に年に数回訪ねてくる。1年のほとんどは、大自然に囲まれた田舎の家で、夫婦2人で2匹の犬と共に過ごす。枯葉の掃除中に、夫は妻に枯葉を投げてからかい、妻も応戦する。川では水をかけあい、正月には雪をかけあって楽しんでいる。夜、妻は今でも屋外のトイレに行くのがこわくて夫に付き添いを頼み、外で歌を歌っていてくれと頼む。私には調子っぱずれに聞こえるが、妻はしみじみと「あなたは歌が上手ねえ」とほめる。お世辞ではなさそうだ。

外出やお祝いの時、2人はいつも色鮮やかなおそろいの韓服を着る。

夫の死が近いことを知った妻は、子ども用の寝間着を6着買ってきて、「先に天国に行った子どもたちに『私から』と言って渡してね」と頼む。「生きていた時に買ってやりたかったけど、当時は貧しかったから。」

「じいさんは夏服と冬服がわからない。無頓着だから。私が天国に行って教えなきゃ。私がすぐに逝かなかったら迎えに来てよ。迎えに来たら、手を握ってね。おそろいの服を着よう。」

やがてその日がやって来た。妻は夫の墓の前で、子どもの寝間着と共に、夫の服を燃やす。「あなた、これは春が来たら着るんだよ。こっちのは春物の肌着だよ。体に気を付けてね。会いたくても我慢してね。私も寂しいけど、我慢するから。」
こういう年の取り方をしたいと思う人も多いのでは?

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