「ミセス・ハリス、パリへ行く」 2022年 イギリス
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第86回
「ミセス・ハリス、パリへ行く」
2022年 イギリス 116分
〈監督〉アンソニー・ファビアン
原題:Mrs Harris Goes to Paris
観る人すべてを幸せな気持ちにさせてくれる映画だ。
最初の舞台は1957年のロンドン。エイダ・ハリスは、朝から晩まで家政婦として幾つかの家を駆け巡る。
エイダはある日、勤め先の女主人の部屋で美しいドレスを見て、心を奪われてしまった。それはパリのクリスチャン・ディオールの一点もので500ポンドもするという。エイダの年収の2倍以上の値段である。しかし彼女はどうしてもパリでディオールのドレスを買うと決意する。働いて倹約をしてお金をため、一方で懸賞金が当たったり、戦死した夫の遺族年金が入ったりで、ついに500ポンドがたまってパリへ出発する。
ディオールの本社では、ちょうどオートクチュールのショーが行われようとしていた。エイダは何とか会場の入口にたどり着くが、追い払われそうになる。彼女が500ポンドの現金を見せて食い下がっていると、ある侯爵が自分のゲストとして招いてくれた。お針子さんやモデルさんたちも珍客に大興奮。華やかな世界を支える彼女たちも、実はエイダと変わらない社会層の人たちなのだ。エイダは出会った人たちに喜びと勇気を与える不思議なオーラをもっていた。会計係の青年とモデルさんの恋をとりもったり、彼女自身が束の間の恋をしたり、楽しいエピソードをはさみつつ、ドラマは進む。エイダは念願のディオールのドレスを手にしてロンドンへ帰る。しかしロンドンでも大波乱が待っていた。
クリスチャン・ディオールの全面協力によって再現した数々の衣装や仕事場にも目を奪われる。「こういう時代だからこそ夢は必要よ」というエイダの言葉は今も新鮮に響く。