「めぐり逢わせのお弁当」 2013年 インド他
「めぐり逢わせのお弁当」
2013年、インド、フランス、ドイツ。105分。
<監督>リテーシュ・バトラ
世界の映画を観ることの楽しみの一つは、その国の文化、伝統、生活の一端に触れることである。この映画では、インドに「弁当配達人」という仕事が存在することに驚いた。ムンバイには、約5千人の弁当配達人がいるという。主婦たちは子どもたちを学校へ送り出した後、夫の弁当を作り、それを配達人が昼前に職場へ届ける。業者の弁当もそれに加わる。その数は、なんと毎日20万個。しかし「ハーバード大学の研究者」の分析によれば、誤配の確率は6百万分の一だそうだ。しかしこの6百万分の一の誤配から不思議な恋が芽生える。
夫の気を引こうとしてイラは弁当作りに励むが、その弁当は、妻に先立たれ、定年退職を間近に控えるサージャンの元に誤配される。夫ではない誰かが弁当を食べたことを知ったイラは、翌日「残さず食べてくれてありがとう」というメモを入れると、返事が入っていた。そして弁当箱を介して文通が始まる。
ある日、夫の浮気に気づいたイラは、国民みんなが幸せだというブータンへ行きたいと書いた。サージャンは、「私もあなたとブータンへ行きたい」と答えた。イラは「私たちは逢うべきだ」と返すが、サージャンは躊躇してしまう。二人はすれ違いのまま終わるのか。ハリウッド映画なら、最後に感動的に出会って終わるのだろうが、アジアの美学は違う。もっと慎ましい。
「人は時々、間違えた電車でも正しい場所に着く。」なかなかいい言葉だ。この言葉の奥にはやはり「人生を正しく導く方がおられる」という信仰があるのだろう。
(「からしだね」2015年10月号)